Soranoha

彼等は絶望しなかった

かれらはぜつぼうしなかった

宮本 百合子

チェホフやウェルサーエフや、現代ではカロッサ、これらの作家たちが医師であって同時に作家であったことは、彼等にとって比類のない仕合わせ、人類にとっては一つの慰安となっている。

彼等はいずれもそれぞれの時代、それぞれの形で、人間は不合理と紛乱と絶望の頁を経験したが、それでも猶、窮極に人間は絶望しきらず、非合理になりきらず、人生は謙遜に愛すべきものであることを語っている作家たちだ。

彼等はそれぞれの制約に対しては、おとなしく且つつましいが、堅牢な理性の確信に立ち、愛という言葉は極度に慎しみつつ、その宣伝にはいそしんだ。この力の泉はどこにあるのだろう。

自然と人間とのいきさつをときあかす科学が彼等の魂の砦であった。狂乱やこじつけを自然はいつもうけつけない。黙ってしっかりそれをくいつくし、正しい秩序にかえして再現する。その偉力の美しさ、無限の鼓舞がそこにある。世代から世代へ渡る橋桁は人間の心のその光で目釘をうたれ鏤められていることを彼等は遂に見失わなかったのだ。

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「宮本百合子」岩崎書店
1951(昭和26)年5月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「彼等は絶望しなかった」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十八巻』新日本出版社、1981年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 004227_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite