Soranoha

いのちのある智慧

いのちのあるちえ

宮本 百合子

人類の祖先たちは、彼らの原始的な生活のもとで、どんなふうに自分たちの発見と智慧とをもちいてきたのだろう。

太古の人類の希望は、幸福に生きたいという単一の強烈な欲求であった。それらの人々は、自分たちに一本の棒の切れはしを研究させ、その先をとがらせ、手にもちいいように小型のものとし、さらにそれにめどをつけて、からだにかぶる皮と皮とをつぎ合わせるに便利な道具に発展させてゆくそのあくことない興味を、幸福に生きようとする人間の願いなどという言葉で表現することさえもしらなかった。しかし人間の幸福と、それに役立つ力こそ智慧であり知識である。そのたがいの関係をもっと自然に、したがって人間らしく扱ってきたのであった。

人類の伝説には、天から火を盗んで人間生活にもたらしたプロメシウスの物語がある。山林の自然発火から学んで、めいめいの小舎の炉ばたにまでもちきたされるようになった火というもの、文明の源泉を人間が掌握したおどろきとよろこびを、プロメシウスの物語は力づよく語っている。

私たちの生きている今日という時代には、できあいの智慧、販売されている知識、多量生産標準型の聰明さというふうなものがあんまり多い。人生的であり、生活的であるからこそ厳粛でもあり、美しく、またかがやかしい人間の智慧、知識が、それぞれの人の生きかたによって整理され、組合わされたものでなくて、模写されているだけの場合がすくなくない。教養のある女性が、とかく観念的であるといわれることは、どこに理由があるのだろう。女性は、みずみずしい智慧のいのちをとりもどし、それをわがものとしなければならない。

〔一九四七年一月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「女性改造」
1947(昭和22)年1月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「いのちのある智慧」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十七巻』新日本出版社、1981年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 004014_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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