Soranoha

十八番料理集

おはこりょうりしゅう

宮本 百合子

白菜と豚の三枚肉のお鍋

そろそろ夜がうすら寒くなってくると家でよくするお惣菜の一つです。白菜を四糎センチ位に型をくずさない様にぶつぶつ切りまして、三枚肉は普通に切ったのを一緒に水をたっぷり入れてはじめからあんまり強くない火で永い時間に煮ます。味は食塩と味の素と胡椒でつけて一番終いにほんの一滴二滴醤油を落します。白菜がすっかりやわらかくなった時白タキを入れても美味しゅうございます。是はスープもたっぷり一緒に呑める分量にしてはじめから水を入れておきます。家のお料理は疲れている時には、塩もつい余計と云う事になって定った分量をラジオの様に申しあげられません。何卒舌と御相談下さい。

ピローグ(挽肉の卵巻き)

これはロシヤで食べたものの真似です。挽肉をみじんにきざんだ玉葱と一緒にいためて食塩と胡椒で普通に味をつけ、卵を茹でてそれを細かく切って、いためておいた肉とまぜます。別にめりけん粉を卵と水でゆるすぎない様にといたものを拵えて、フライパンにバタをぬってめりけん粉をといたものを少し流し込んでうすい皮をつくります。その皮の中へ、前に拵えておいた肉と卵の混ぜたものをつつんであつい中にいただきます。そのままでもよし、卵クリームでもあると大へんな御馳走になります。

変りふろふき

これからはよくどちらでも大根ふろふきが流行はやります。大好きですがどうも胡麻をかけただけでは物足りないので一工夫して、挽肉を味噌、醤油、砂糖で甘辛くどろりと煮て胡麻などの代りにかけていただきます。

中々誰にでも喜ばれます。

野菜と肉のいり煮

サラダ菜が好きですが生がこわいので思いついた事。もやしでも何でも、少々の肉類、玉葱のいい加減にきざんだもの、それを皆一緒に豚油をとかしたものでいため、だしを入れて塩と砂糖、醤油で好みに味をつけ、下すすぐ前にサラダ菜をむしって洗っておいたものをほどよく手でちぎって入れ、ぐったりしたところですぐ下します。好みによりサラダ菜の葉が多くても少くてもよい訳でしょう。

そばのカーシャ

これはお料理の説明と云うよりは私の長年の食べたい想いをのべるわけですが。東京にそばの実の殼をとったまま、粉にしないでまるのままのがあるでしょうか。誰に聞いても知らない様ですが、この丸いままのそばの実を壺に入れて一晩水につけたものをオーブンで焼いて、柔かいけれどぱらっとしたものが出来上ったところへバタを混ぜたり玉葱をバタいためにしたものをまぜたりして食べますと実に軽くて、いい香がしてその味は中々忘れられません。ロシヤの家庭で極く普通につくられて居ります。もしそばの丸のままの実があるものなら一度はやってみたいと思って居ります。読者は日本中にいらっしゃるわけですからもしかそんなそばの実が手に入る事を御存知の方がいらっしゃると思いますので。

〔一九三九年十一月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「新女苑」
1939(昭和14)年11月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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TEI
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「十八番料理集」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十七巻』新日本出版社、1981年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 003956_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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