Soranoha

読者の感想

どくしゃのかんそう

宮本 百合子

宇野さんには、まだお会いしたこともない。未知の読者の一人というに過ぎない。けれども、従来、小説を書いていた女のひと達とは、テムペラメントも違い、これまでなかった色彩を耀かそうと努められるらしい種々の作品に深い興味を感じています。近頃の作は、初期の「墓を発く」などから見ると、ずっと印象的に、直観的に描こう、のろのろ描写せず、感情の峰から峰へ飛躍しようとされるらしい。日本ばかりでなく、女の作家はとかく狭いモラリティーに拘泥してきびきび純芸術的に行かないのが多いから、宇野さんのお品ぶりのないのは強味だ。いろいろ期待するからこそ不平が出るのだけれども、遠慮なく云えば「一年間」にしろ、取材はわるくなく、細部にフレッシュなところがあるのに、全篇の印象が何故か読者の胸にぴたりとしないのはどういうものだろう。読んでゆくうちに心が吸いよせられ、アブゾーブされ切れない。或る点まで牽きよせられ、もう一つというところで何ともしようない状態に置かれるので、不満めいた気持になるのです。牽かれるのは、その感覚的な明るさ。或るところで、何だか悲しく溶けこみきれないのは、作につきまとっている一種ちらちら、ひどくちらつくもののためではないでしょうか。峰から峰へとぶのに、弁天様の着物のように沢山の襞や色どりが翻るようなのだ。今に、その点が洗練されたら、持ち前のよいものが純粋に立派に輝き出すと信じます。(――特色をなす多くの襞や色どりの各々を、真にユニークな作者自身の感覚で、生一本に、純に、強く感覚することによって。)

〔一九二五年十月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「婦人公論」
1925(大正14)年秋季特別号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「読者の感想」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十七巻』新日本出版社、1981年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 003857_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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