Soranoha

講和問題について

こうわもんだいについて

宮本 百合子

二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河ハダホ開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかって自決させられたという記事がありました。

その時六、七名から十二名におよぶ女子供を銃殺した人達が復員しているという記事が問題となっていました。その中の一人である教員が、もしあの当時、“降伏”という言葉が日本にあったならば、ああいうことを誰がしたろうと語っていました。

日本の講和問題というと、それは政府の仕事で、私たち女などが発言する場所でないように思う習慣があるけれども、この恐ろしい悲しい実話一つを考えてみても、日本の婦人こそ平和について最も発言権の多い人々であることがわかります。

このあいだ朝日新聞が講和問題についてアンケートを集めたとき「単独講和でいいから、そして軍事同盟の条件がついてもよいから早いほどよい」と答えたのはおもに実業家でした。学者、作家、その他の人々は、「どうせ政府が宣伝しているように手ッとり早いことはできないのだから、日本の幸福のために、世界に日本の良心を示すために、平和がたしかに守れる条件をそなえた全面講和と絶対的な武装放棄を主張すべきである」と答えていました。

帝国主義の世界では、まだまだ戦争でもうける者があります。そのために景気がよくなるとか、失業が救われるとか、日本の地位が高くなるとか、戦争挑発を行います。

昔から、落城の時、まっ先に殺されたのは子供と女でした。現代の科学兵器で銃後というものはありません。この小さい海に囲まれた人口の多い日本が、万一超威力の近代戦にまき込まれたとしたら、どこによわい女、子供の安全な場所があるでしょう。

講和は私たちの生命いのちの問題です。〔一九五〇年一月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「ゼンセン」全日本造船労働組合機関紙
1950(昭和25)年1月16日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「講和問題について」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十六巻』新日本出版社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 003485_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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