Soranoha

未亡人への返事

みぼうじんへのへんじ

宮本 百合子

私たちが不幸から解放され、苦しみから生き抜いていく方法は、実に幾種類もあります。ちょうど私たち一人一人の顔つきも、声も、心もちも違うように――。

けれども、戦争と、それからひきおこされた不幸は、千差万別のあらわれはもっていても、根本はただ一つの原因と結論の上に立っています。それは戦争が人類的罪悪であるということと、その戦争は、すべての人の努力によって、これから又くりかえされることのないようにしなければならないということです。夫を失った沢山の妻たち、母たちが、その悲惨をくぐり抜けて、自分と子供の生活を守り、うちたてていこうとしている努力の姿にも、深い必要と、よって来る社会的理由があります。再婚するしないということ、それは本当にそれぞれの人の心の自然な求めに従って判断され、きめられていいことです。

ですから、お手紙のような心もちの若い方々が新しい結婚生活に入っていかれることを誰がとがめましょう。

実際、問題は、再婚のよしあしよりも、再婚を自然のこととして自分にも人にも認めながら、日本の家庭についての考え方がまだ古くて、子供をもっている女の人の再婚がむずかしいというところに、再婚しまいとしている人の切ない問題があるのではないでしょうか。再婚しないと決心した人の心の中に入って聞いてみれば、子供をつれた婦人の再婚のむずかしさを、しんから感じている結果でしょう。子供が三人ある人、そのために生活の負担が非常に重い人、よしんばその人にはひかれる心があったにしろ、三人の子供と共に、その人を妻に出来るという男の経済能力がどこにあるのでしょうか。男の経済能力も、戦争によって、壊されています。

再婚することは出来たとしても、今日の実際では、妻が何かの働きで、経済的にも協力してゆかなければならないでしょう。

お手紙は感情を主として披瀝されていて、現実の事情はわかりかねましたが、時がたつにつれて、新しい愛を求める心持があることは誰にも思いやられることだと思います。そして戦争からうけた傷をいやされて、新しい生活の出発をすることの出来た人が一人でも多いことこそ、私たちのよろこびです。

心から願うことは、もし幸いに愛とよぶにふさわしい心の状態で再婚が可能である方々は、どうぞ自分一人の解決ですべてが解決してしまったような気持になってしまわれないことです。ぬけるにぬけられない境遇をどこまでも背負い続けてゆかなければならない人々を忘れておしまいにならないようにという願いです。再び自分が夫とよぶことの出来る人を得るにつけても、自然な女の渇望と闘いながら、子供のために生きて行かなければならない人々の立場について、むしろ積極的に発言する一人として自分の女性としての連帯を忘れないでほしいと思います。

自分のかえり咲いた春のよろこびにつけてさえも、戦争の罪悪に対して強く闘う心持を新しくされるのが自然だと思います。〔一九四九年二月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「婦人」
1949(昭和24)年2月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「未亡人への返事──未亡人はどう生きればよいか」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十五巻』新日本出版社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 003286_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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