Soranoha

自信のあるなし

じしんのあるなし

宮本 百合子

私たちのまわりでは、よく、自信があるとか、自信がないとかいう表現がされる。そして、この頃の少しものを考える若い女のひとは、何となしこの自信の無さに自分としても苦しんでいることが多いように思えるのはどういうわけだろうか。

一つには、女の与えられる教育というものが、あらゆる意味で不徹底だという理由がある。なまじい専門程度の学校を出ているということで、現実にはかえってその女のひとの心がちぢかまるということは、深刻に日本の女性の文化のありようを省みさせることなのである。

けれども、自信というものに即してみれば、そもそも自信というものは私たちの生活の実際に、どういう関係を持っているのだろう。でも自信がなくて、といわれる時、それはいつもある一つのことをやって必ずそれが成就すると自分に向っていいきれない場合である。成就するといいきれないから、踏み出せない。そういうときの表現である。けれども、一体自信というものは、そのように好結果の見とおしに対してだけいわれる筈のものだろうか。成功し得る自信というしか、人間の自信ははたしてあり得ないものだろうか。

私はむしろ、行為の動機に対してこそ自信のある、なしとはいえるのだと思う。あることに動こうとする自分の本心が、人間としてやむにやまれない力におされてのことだという自信があってこそ、結果の成功、不成功にかかわりなく、精一杯のところでやって見る勇気を持ち得るのだと思う。その上で成功すれば成功への過程への自信を、失敗すれば再び失敗はしないという自信を身につけつつ、人間としての豊かさを増してゆけるのだと思う。行為の動機の誠実さに自分の心のよりどころを置くのでなくて、どうして人生の日々に新しい一歩を踏んでゆかなければならない青春に自信というものがあり得よう。

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
1952(昭和27)年8月発行
初出:「婦女新聞」
1940(昭和15)年5月10日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「自信のあるなし」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十四巻』新日本出版社、1979年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 003117_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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