Soranoha

十月革命と婦人の解放

じゅうがつかくめいとふじんのかいほう

野呂 栄太郎

資本主義体制に対する社会主義体制の優越性が今日ほど明瞭になったことはない。停滞し、腐朽し、没落への一途をたどりつつある資本主義制度に対して、社会主義の建設に素晴らしい成功を収めつつあるソビエト同盟の存在は、われわれの眼前に最も鋭い対照を示している。

資本主義の一般的危機×の基礎の上に発展した世界経済恐慌が例外なくすべての資本主義国を強襲している秋とき、ソビエト同盟にだけは恐慌など薬にしたくもないばかりでなく、かえって社会主義経済が巨人の歩調で発展している。資本主義諸国では近代的産業に従事する労働者の失業者のみでも三千万人を突破し、まだますます増大しているのに、ソビエト同盟には一人の失業者もないばかりかかえって労働者の不足を訴えているほどだ。資本主義諸国の労働者が賃銀引下げ、労働強化、租税及び関税の引下げ、小売物価下落の人為的阻止、わずかばかりのいわゆる社会政策費さえの削減等々によって極度に生活水準を引き下げられ、わずかに職にありついている者さえ半飢餓の状態に陥り、ために労働者はまったく生産のための熱意も、創意も失ってしまっているのに、ソビエト同盟では大部分の経営において一日七時間労働制が実施され、五カ年計画の最初の二カ年間に早くも労働賃銀は一割二、三分も増加し、その他社会保険及び福祉基金は同じ二カ年間に三十二億円も増加し、従って労働者は非常な意気と覇気とをもって労働に従事し、驚くべき創造力を発揮している。農村について見ても、資本主義諸国では一般経済恐慌と結びついた農業恐慌の深刻化のため、農産物価格の激落に反して、肥料及び農具代、租税、高利負債等の負担がかえって相対的にまたは絶対的にさえ加重化し、ために貧小農はもちろん中農までもまったく破滅に瀕し、餓死の状態に陥っているのに、ソビエト同盟においては、貧農ばかりでなく中農の決定的多数もまた共同経営に参加し、勤労農民の経済的、社会的生活水準は著しく向上し、勤労農民の圧倒的多数がプロレタリア独裁×の積極的な支持者となっている。

資本主義諸国とソビエト同盟とのこのまったく対極的な発展、前者に対する後者の決定的優越性は、とりも直さずブルジョア独裁×とプロレタリア独裁×との両極的発展を示すものであり、資本主義的無秩序経済体制に対する社会主義的計画経済体制の争う余地なき優越性を証拠立てるものであるが、ソビエト同盟の社会主義的建設のかような成功的発展は、言うまでもなく、一九一七年のかの十月革命×において資本家地主政府を倒×してプロレタリア独裁×を実現し、資本家地主がソビエト同盟の労働者農民を搾取し、抑圧することを不可能ならしめたことによって始めて可能にされたのである。

ソビエト同盟の社会主義建設の輝かしき発展のために大道を切り開いた十月革命×、この人類史上最も偉大なる歴史的事変たる十月革命×の幕は、ツァーの専制を打破し、ロマノフ王朝に歴史的終末を与えたかの二月革命×によって切って落とされたのであるが、この二月革命×の口火を切ったものこそは、外ならぬペトログラード(今のレニングラード)の婦人労働者だったのである。ツァーの専制下に一切の政治的、社会的権利を奪われ、経済的、社会的隷従を強いられてまったくの非人間的生活をしていた勤労婦人たちは、さらに第一次帝国×主義戦争によって親や夫を奪われ、過酷な労働を課され、窮乏のドン底に突き落とされていた。一九一七年三月八日(露暦二月二十三日)ついに、ペテログラードの工場婦人労働者たちは、「パンと平和を与えよ!」のスローガンを掲げて婦人デー、デモを決行し、闘争の口火×を切り、雄々しくもプロレタリア革命×の序曲、二月革命×の行進曲を奏でたのであった。

二月革命×によってツァールは倒×れた。だがブルジョアジーの支配は続いた。ブルジョアジーの支配が維持された限り、ツァールは倒×れてもツァーリズムの暴虐は跡を絶たなかった。ブルジョアジーがなお政権を握り、プロレタリアートが未だ自らを解放しなかった限り、一切の被抑圧民衆の解放はなく、いわんや婦人の解放はあり得なかった。二月革命×の諸経験が、帝国主義ブルジョアの手先ケレンスキー内閣の諸政策が何物よりも雄弁にそれを立証した。ケレンスキー内閣は、「パンと平和とを与え」得なかった。革命×的労働者、農民とともに婦人労働者及び農村勤労婦人もまた、二月革命×後の生き生きとした現実の諸体験と、ボリシェビキの積極的宣伝、扇動とのおかげで、プロレタリアの勝利によってのみ、プロレタリア独裁×の実現によってのみ彼女たちの真の解放が実現せられるのだということを、次第にハッキリと意識するようになった。

二月革命×の火蓋ひぶたを切った勤労婦人たちは、十月革命×においてはもっと積極的な役割を演ずるようになっていた。彼女たちの多くは、革命×的プロレタリアートの積極的な味方として、炊事、看護、通信連絡等、赤衛×軍の後方陣地における諸活動の一切を負担したばかりでなく、彼女たちの意識的分子は進んで第一線に立って十月革命×の勝利のために絶大な貢献をした。そしてまた彼女たちは、いったん獲得したプロレタリア権力をあくまで死守するために、長い間反革命×軍や帝国主義諸外国の重囲のうちにあらゆる困難に耐えて勇敢に闘い、ついにそれらを撃破することに成功した。かくしてすでにプロレタリア独裁×の確立した今日では、ソビエト同盟の婦人たちは、男子とまったく同一の政治的、経済的及び社会的権利を得、男子の間に伍ごして社会主義建設のために積極的に活動している。ソビエト同盟における社会主義建設の事業の一事は、文字通り勤労婦人の力によって成就されつつあるのだ。

ソビエト同盟においては、十月革命×によって、男子と女子との間における政治上、法律上及び社会上の一切の不平等は撤廃された。「婦人が男子と不平等であるという瘍跡こんせきはわがソビエト・ロシアの法律には少しも残っていない。ことに賤いやしむべき、下劣な、偽善的な結婚の不平等と家族の権利の不平等、小児の地位の不平等はソビエト共和国によって完全に廃絶された」(レーニン)。だが「婦人を完全に解放し、そして本当に男子と対等にするためには、社会×主義的経済、生産と消費とにおける共同経済、及び一般的生産への婦人の参加が必要とされた」(レーニン)。

資本主義の発達とともに婦人のますます多くが生産過程に参加する。それは、しかしながらソビエト同盟における場合のように、婦人を「家庭奴隷」から解放し、男子への寄生的、隷属的地位から解放して、彼女たちを独立の社会人として男子と同等の地位において社会的生産に参加せしめるためではなくして、かえって資本主義的搾取と隷属とを、従ってまた婦人の男子への隷従をますます強固にし、「永久化」せんがために外ならぬ。資本主義社会においては、婦人の生産への参加はそれだけ男子の職を奪うことになり、男子の賃銀を女子の水準にまで引き下げ、一般的労働条件をますます悪化させて、できるだけ多くの余剰価値を搾取するための手段として資本家のために役立つにすぎない。しかもかようにして親や夫が職を奪われまた賃銀を引き下げられる結果、彼女たちのますます多くがいや応なしに一家の飢餓を救うために職業を求めて奴隷的労働を、時にしばしば恥ずべき醜業をさえ余儀なくされるのである。かように、婦人の一般的生産過程への参加というそれ自体進歩的な、婦人解放の必要条件も、資本主義制度の下にあってはかえって婦人の男子への隷属を強め、婦人のみならず全勤労大衆をますます無慈悲に資本の支配下に屈従せしめることに役立っているにすぎない。それは何ゆえであるか? 資本主義社会においては、一切の生産手段は男子に、なかんずく資本家及び地主に属し、全勤労大衆とともに婦人たちの大部分はまったく生産手段の所有から排除されているからである。婦人の男子への隷属は婦人の生産的労働からの排除、生産手段処分権の男子への集中とともに起こった。そしてこの過程は、同時に主要生産手段のますます多くの部分がますます少数者の掌中に集中せられ、直接生産に従事する者の大部分が生産手段の所有から排除せられる歴史的過程に対応して進行した。

婦人の男子への隷属は、資本と土地所有とへの全勤労大衆の従属の歴史的進行過程における必然的所産に外ならない。婦人の解放は、それゆえ、資本と大土地所有との支配に歴史的終焉しゅうえんを与えて、一切の生産手段を直接生産に従事する全勤労者の手に取り×戻すことによってのみ、そしてまた、かくして実現される生産手段の社会主義的所有に基礎を×置く社会的生産に男子同様彼女たちも積極的に参加することによってのみ始めて実現し得るのである。二月革命×の口火を切り、十月革命×の勝利のために積極的に参加したソビエト同盟の、姉妹たちが、かのツァーリズムの支配下にあっては世界の「文明国」の婦人中でも最も無権利であり、最も後れているにもかかわらず、今やプロレタリア独裁×の下にあっては、男子とまったく同一の政治的、社会的ならびに経済的権利を享得して社会主義建設の歴史的事業に積極的に協力し、男子と肩を並べて非常な熱意と創意とを発揮しているのは決して偶然ではない。

――『女人芸術』一九三一年十月号――

底本 / Source edition

底本:「野呂栄太郎全集 下」新日本出版社
1994(平成6)年12月5日初版発行
初出:「女人芸術」
1931(昭和6)年10月号
※初出の伏せ字は、底本では編集部によって復元され、当該の箇所には×が傍記されています。
※底本では、表題「十月革命と婦人の解放」の「革命」にも×が傍記されています。
入力:山田剛
校正:川向直樹
2004年6月27日作成
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書誌 / Bibliography
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野呂 栄太郎「十月革命と婦人の解放」(新字新仮名)、底本『野呂栄太郎全集 下』新日本出版社、1994年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 003062_000287, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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