Soranoha

勝利したプロレタリアのメーデー

しょうりしたプロレタリアのメーデー

宮本 百合子

さあ、いよいよメーデーが近づいたぞ!

ソヴェト同盟のあらゆる工場・役場・学校の文化宣伝部委員たちは大忙しだ。

ブルジョア国の革命的プロレタリアートは、同じ頃、盛んにメーデー闘争の準備のために白色テロルと争いながら活躍している。

が、プロレタリアートが勝利したソヴェト同盟では、ほんとに解放されたプロレタリアート祝祭準備だ。

八時間労働がすむと工場クラブに集れ! そこでみんなが賑やかに熱心にメーデーの行列に持ち出す張り物、人形、スローガンを書いた赤いプラカードなどを制作する。

工場工場が趣好をこらして、見テロ! びっくりさせてやるからと、腕によりかけて、いろんなものを拵えるんだ。

何日もかかって、その仕度が出来上る。婦人労働者たちは、デモに着て出る服の手入れでもして、四月三十日になると、モスクワ全市の食糧品販売店では、火酒ウォトカ、ブドー酒、ビール、すべてアルコールの入った飲物を一斉に――売り出すのか? そうじゃない、反対だ。絶対にアルコール飲料は売らなくなる。

メーデーは神聖な世界プロレタリアートの祝日だ。ホロ酔い機嫌でデモに参加する奴なんかあっては、階級の面よごした。だから一切酒は売らない。

ロシア人は、何しろ毎日ビショビショ降りつづく十月にあの偉大な革命を遂行したぐらいだから、だいたい天気には無頓着だ、雨が降ったって、雪がふったって、傘なしで元気なものだが、メーデーの前日だけは、誰でもつい天気を気にする。

「あした、どうかな天気工合は?」

「よくしたいもんだ。もっとも、ちっとやそっとパラパラ来たって平気さ。去年だってお前、朝のうちは一寸落ちたが、プロレタリアの威勢を悦んで、昼頃は太陽が照り出したぜ。」

去年のメーデー! 自分はモスクワ赤い広場近くの大通り近くに住んでいた。

目をさますと、今朝は往来が何とも云えずシーンとしているのが室の中まで感じられる。そりゃそうだ。メーデーにはモスクワ中の電車、乗合自動車がすっかり止る。車掌でも運転手でも一人残らずみんなデモに参加するんだ。

やがて遠くから音楽が聞えだした。ソラ! 出て見ろ!

町の角に立派な出来たての郵電省がある。幾条もの赤旗で飾られた正面玄関の石段に立って、群集と一緒に街の上手を見渡すと、来るゾ! 来るゾ!

赤旗につづく赤旗の波だ。

六列横隊で、自分達の工場音楽隊を先頭にして、行進曲と共にやって来る。愉快そうで、整然としていて、胸も躍る光景だ。

「五ヵ年計画ヲ四ヵ年デ!」

「ブルジョア反ソヴェト陰謀ヲブッ潰セ!」

次から次へ赤いプラカードが来る。あいまには、張物はりものだ。ブルジョア、地主、坊主が、社会主義社会建設のために働くプロレタリアの鉄の鎚で、それぞれ頭をドッカン、ドッカンやつけられながら進んで来る。

ワーッ! と見物は喝采する。

先頭が赤い広場の入口で止った。後から後から、見える限り街は動かない赤旗だ。

「まだ赤い広場の閲兵式がすまないんだってさ。」

すると止ったデモの中に、いつかしら輪が出来て、元気な手拍子、口笛で昔からあるロシア踊りを若い連中がおどり出す。

向うの方でも負けてはいない。コーカサス地方の服装をした労働婦人が、長い白絹の布を手にもって、やさしい故郷の踊をおどりはじめる。

地面の上が喜びあふれるメーデーのデモで埋っているばかりではない。

空に、快い爆音がある。飛行機だ。数台の飛行機がメーデー祝祭の分列式を行っている――

モスクワのあらゆる街々から赤い広場へ向って行進して来たデモが、広場へ入る二つの門の外で赤旗の海となった時、広場の中うちでは、威風堂々の閲兵式の殿しんがりとして、ソヴェト共産党青年団、中華民国共産党青年団救護隊が通過した。

社会主義ソヴェト、万歳‼

メー・デー万歳‼

ウラーアァ‼

轟く歓呼の声の下で、動き出したぞ!「インターナショナル」の一際高い奏楽といっしょに、先ず先頭の赤旗が広場へ向って静かに繰り出した。

続いて、あっちの門からも!

合流して、十数万のプロレタリアートが前進する足音と音楽とは、夕暮近くまで赤い広場に響き渡った。

デモは日が暮れるまでに終ったが、ソヴェトのメーデーはこれですんだんじゃあない。

夜はイルミネーションだ。

その壮観を見物しようとして押しかけて来た家族連れの群集で、夜の赤い広場がまたえらい人出だ。

モスクワ市発電所の虹のようなイルミネーションが、チラチラ美しくモスクワ河の面に溶けている。赤色労働組合の総本部労働宮は、どうだ! まるで闇に浮き立つ光の宮だ! クレムリンの時計台にとりつけられたラジオ拡声器は絶えずピアノ行進曲を広場中に撒きちらし、

「帝国主義とファシズムの犠牲者に

階級の兄弟プロレタリアートからの

挨拶を! 世界革命万歳‼」

国立百貨店の建物に張りまわされたプラカートの字が夜目にもハッキリ見える。

懐しい日本語で、

万国の労働者結合せよ‼

と書いた幟も飾ってある。

レーニン廟の赤いイルミネーションは、メーデーの夜、一時過ぎてもまだ絶えないモスクワの群集を照らしながら、

レーニズムノ旗高ク

五ヵ年計画ヲ四ヵ年デ!

と輝きとおしていた。〔一九三二年五月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
1952(昭和27)年12月発行
初出:「メーデー」日本プロレタリア作家同盟高知支部
1932(昭和7)年5月
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年10月28日作成
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「勝利したプロレタリアのメーデー──モスクワの五月一日」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第九巻』新日本出版社、1980年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 002754_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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