わが上に一切の事物を示す「失楽」よ、 過ぎゆく日の最後なる今日の「失楽」よ、 わが身の上の「失楽」よ、我は汝に叫ぶ、 「全く空し」と。 我は幽欝なる汝の栖所に圧込められ、 我は其処に、粛索と飢渇との苦を続く。 何物も好からず、何物も最後まで期待せし所に値せず。 かくて、我は、今、汝の抱緊の下に死なんとす、 悔も無く、望も無く、怖るる所も無く。 無し、無し、一の叫びも無し、一の戦慄も無し。 最後の頼みとせしわが「愛」さへ喘げる負傷者なり。 他の、最後のわが神は青白き其額を包む、 そは「夜」なり、陰森として眠を誘ふ「夜」なり。 かくて、我は夢に落ちゆく。「生」とは何たるみすぼらしき語ぞ。 寥廓の不動なる路彼れを塞ぎ、 暗き地牢の底に其力を涸しながら、 昏睡せる人の無感覚こそやがて其「生」なれ。 ああ、自信と、期待と、愛とは、 轢りつつ、幸福を砕き去る荒砥ならず。 生くる欲、物の欲、恐怖、 少くも、気永に地を貪り食ふ植物の如き、 勇猛に竪実なる生活。 然れども、無し、無し、「虚無」が其欝憂をさまよはす、 荒廃したる大歩廊の外、何物も無し。 かくて此失楽の中に猶蠕動く……大馬鹿者よ。     ○ 貴なる女君よ、なつかしき身振もて、 開けたまへ、いとも輝かしき台の新しき帷を。 そは、かずかずの薔薇の打顫ふいみじき花の姿を いと疾く我等に観せしめ給ふため。 また許したまへ、此処にあるそこばくの歌を、 節会の日に喜び狂ふ学生等の如く、 君があたりに捧ぐることを。 さて、如何に、気上りたる動音の 君が秀れし詩才を称ふることよ。 君は常にときめく韻をもて歎きながら わななく熱き胸を語り給ふとこそ覚ゆれ さて、また、楯形の菫の花なる君が目は 常に涙さしぐみつついますならめ。     ○ 来りぬ、わがかひなの中に。さて共に身を忘れぬ。 開けかし、美くしき歯に満ちし君が口を。 わが舌は穿ち入る。 さながら君が心を舐るここちに。