Soranoha

雑録

ざつろく

山中 貞雄

雑録

――前進座に就いて――

山中貞雄

率直に言えば僕は河原崎長十郎氏並びに前進座一党の諸氏が非常に好きだ。

Boys be ambitious ! 前進座は多くを語らない。

そして常に青年らしい野心を深く包んで黙々として芸道に精進している。

それを此の度太秦発声で「清水次郎長」に出演している一党の態度を見て僕は一入感を深くした。

○

前進座は芸道に於て非常に謙譲だ。

此の徳は此の道に携わる者の誰もが持ちたいものだと思う。

特に映画の場合にこの徳を失ったならば(少くとも僕の場合にだけは)ほんとうの映画は撮れないと思う。

前進座は謙譲の徳を持っている。それは表面的のものでなく、芸熱心の故に自然と備わる徳である。

○

前進座は家族的感情に統一されている。

此の一党の人々から受ける感じはこの人は長十郎氏であるとか、此の人は翫右衛門氏であるとか云う個々な感情ではない。

此の一党の人々は「此の人は前進座の人である」と言う感じから切り離して考えることが出来ない。即ち前進座なる一家の兄姉に対する感情であり、弟妹に対する感情である。

僕は一つの仕事に熱情を傾けて携わる場合、いつも此の空気の中にいて働き度いと思う。

○

僕は前進座の此のぴちぴちとした若々しさ――此の覇気を愛し、此の芸道に於ける謙譲の徳を讃え此の家族的な融合を羨ましく思うものだ。

僕はこうした前進座に対する感情から、この一党と共にまじめな仕事をして見たいと考える様になり、僕から進んで前進座との仕事を申し出たわけだ。

此の話が若しも具体化したならば僕は前進座の為めに全力を傾けて働く積りでいる。

そしてきっと面白い仕事が出来るであろうと、ひとり今から興奮している次第である。

底本 / Source edition

底本:「山中貞雄作品集 全一巻」実業之日本社
1998(平成10)年10月28日初版発行
入力:野村裕介
校正:伊藤時也
2000年2月18日公開
2003年10月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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山中 貞雄「雑録──前進座に就いて」(新字新仮名)、底本『山中貞雄作品集 全一巻』実業之日本社、1998年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 002320_000072, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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