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        <title type="main" xml:lang="ja">征服の事実</title>
        <title type="reading" xml:lang="ja-Hira">せいふくのじじつ</title>
        <author><persName xml:lang="ja"><surname>大杉</surname><forename>栄</forename><idno type="aozora-person-id">000169</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>おおすぎ</surname><forename>さかえ</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Osugi</surname><forename>Sakae</forename></persName></author>
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        <bibl><title>全集・現代文学の発見・第一巻　最初の衝撃</title><publisher>學藝書林</publisher><date>1968（昭和43）年9月10日</date><note type="input-edition">1968（昭和43）年9月10日第1刷</note><note type="proof-edition">1968（昭和43）年9月10日第1刷</note></bibl>
        <bibl type="first-publication">「近代思想　6月号」1913（大正2）年6月</bibl>
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      <refsDecl xml:id="source-spans"><p>A note of type source-span has an xml:id of the form source-START-END, giving the extent in UTF-8 bytes of the decoded primary text identified in sourceDesc. <ptr target="https://w3id.org/soranoha/ns/tei"/></p></refsDecl>
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      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-431-529">樗牛全集の中に、ブランデスの何かの本から抜いた、次の文がある。</seg></p>
      <p>「少なくともヨーロッパの四大国民の名は、いずれもみな外国の名である。フランスの名称は、ライン河の西岸に棲んでいたフランク人から来たもので、この国民の祖先たる古のケルト人とは、何の因縁もないのである。イギリスの名は、もとドイツの一地方から来たもので、アングロサクソン民族とは、何の血族上の連絡もないのである。ロシアの名は、もと北方の起原で、スカンジナビアの一民族たる、ロゼルの転訛したものである。プロシャはプロイセンというスラブの一蛮族の名で、十二世紀の終り頃に、ドイツにはいったのである。」</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1266-1607">この事実は、僕が今ここに述べようとすることと、あるいは関係のあるものもあり、あるいはさほどに関係のないのもあるかも知れぬ。けれども、これを読んだ時の僕自身に取っては、これが深い社会事実を思わせる、力強い暗示であったのである。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1607-1747">征服だ！　僕はこう叫んだ。社会は、少なくとも今日の人の言う社会は、征服に始まったのである。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスとは、その共著『共産党宣言』の初めに言っている。「由来一切社会の歴史は階級闘争の歴史である」と。けれどもこの階級闘争の以前に、またそれと同時に、種族の闘争があった。そしてそこに、この征服という事実が現れた。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2126-2368">人類がまだ動物の域にいた頃、その住家は、恐らくは熱帯地の何処かであったろうと思われる。そして多くの事実は、人類の始現を見た地方として、南方アジアを指している。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2368-3024">ここに初期の人類は、自然の富饒の間に暖かい空気の下に、動物のような生活を送りながらも、なお多少環境を変更し、または他の肉食獣を避けもしくは欺くに足る知識もあり、非常な速度で繁殖することができた。そして血族関係から生じた各集団の人口が多くなって、互いに接触し衝突するようになれば、その集団は思うままに四方八方に移住した。かくして長い間、原始人類の間に、安楽と平和とが続いた。この時代が、昔からよく言う、いわゆる黄金時代であったのである。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3024-3712">そのある集団は、いよいよ遠く、あるいは島嶼にまで移り住んで、他の集団と接触することもなく、したがって何の煩わされることもなく、その単純な半獣的存在を続けた。今日なお世界の各地に残っている原始人種はすなわちこれである。けれどもさほどに遠くまで中心地を離れなかった集団同士の間に、やがてその人口の迅速な増加とともに、相互の接触と衝突とが生じて来た。そしてそこに、従来の平安な、半獣的自由の生活が失われて、いわゆる文明が生れかけて来た。歴史が始まりかけて来た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3712-4059">その間にこれらの各集団は、その共通起原の伝習も痕跡も失って、各々違った言語や風習や宗教を持つようになり、まったく異なった種族を形づくってしまった。そして各種族は互いに接触するごとに、衝突となり戦争となって、残酷な仇同士となった。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4059-4448">この形勢は、発明、しかも主として攻撃と防禦との方法を生産することに向った発明の、有力な刺激になった。戦争の勝敗は今も昔も、個人の勇敢ということよりも、むしろ、武器の機械的優劣によるものである。かつ尚武心は発達した。野心深い酋長等は、互いに攻略を競い始めた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4448-4882">グンプロウィツとラフエンホフアとは、この種族間の闘争によって社会が創生せられたことを、巧みに論証している。種族闘争の第一歩は、一種族による他の種族の征服である。他の種族よりも優れた武器と戦略的才能とを持っている一種族が、勝利を占めて征服者となる。そして他の種族は被征服者の地位に落ちる。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-4882-5445">この征服によって、まったく異なった二種族が密接な接触をすることとなる。しかし彼等はとうてい同化することができない。いわばその社会は両極に分れるのである。征服者は常に被征服者を蔑視する。あらゆる方法をもって奴隷化する。被征服者はまた、仕方なしに服従しながらも、征服者の暴力以外のいっさいのものを認めない。かくして互いに敵視し反感する二種族が、社会の両極を形づくることとなる。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5445-6221">けれどもこの二種族の不平等は、地位の不平等ということ以上に、なおあるものがあったのである。もともとこの二種族は先きにも言ったごとく、まったく異なれる種族である。彼等は異なれる言語を使っている。異なれる神を崇拝している。異なれる様式と礼拝とを行っている。異なれる風俗と習慣と制度とを持っている。そして被征服種族は、それらのものの一つでも失うよりは、むしろ退治し尽されることを望んでいる。征服種族はその臣下の有するあらゆるものに対して、絶対的軽侮をほしいままにしている。しかしそれを自らのものに同化することはできない。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6221-6414">ここにおいて、この両極の調和、というよりはむしろ、征服者が本当に被征服者を征服しおわせんがために、社会の諸種の制度が生れた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6414-6902">被征服者のいっさいの行為に対して、絶えず兵力を用いる困難と費用とおよび部分的失敗とは、ついに征服者の一大負担となった。一時は勝利の誇りに駆られて、その権威に対するあらゆる叛逆者を、見つかり次第に厳罰に処してもいたが、やがてこんなふうに一人一人別々に支配して行くのが面倒臭くなって、何とか纏った統治の方法が要求せられて来た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6902-7651">すなわちもっともしばしば犯される行為の種類を圧伏するために、ある一般的規則を設けることが発明せられた。そしてこの方法のはなはだ経済的なことが分ってからは、なおその他の広い範囲の諸種の行為にも、同様にそれぞれの一般的規則を設けることとなった。かくしてついに今日いうところの法治的支配の基礎が置かれたのである。そしてこの法律を犯さない間は、多少の自由が、被征服者に与えられる。換言すれば、この法律に服することが被治者の義務であり、この法律の違犯にならない行為がその権利であると認められるようになった。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-7651-8391">これと同時にまた、征服階級のいわゆる教育ということが行われた。両階級の地位の不平等を維持して行くためには、もともと被征服者階級の方があらゆる点において劣等種族であるという観念を、是非とも被征服階級自身の心中に、しかと植え付けて置かねばならぬ。もし被征服階級がいささかでもこれに疑惑をさしはさむようになれば、それは社会の安寧と秩序との大なる紊乱を生ずるもととなる。そこでこの観念を強制するために、諸種の政策が行われた。いわゆる国民教育の起原にしてかつ基礎たる組織的瞞着の諸種の手段が行われた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8391-9356">けれどもただこれだけでは治まって行くものではない。元来ある一種族が征服せられたというのは、ほんの偶然の出来事からか、もしくは戦争術が下手だったからである。その他の点においては、あるいは被征服者の方がかえって優れていたかも知れぬ。そこで征服者は、利害のまったく異なった被征服者を統治する困難から遁れるために、被征服者の中のあるものの助けを乞わねばならなくなる。被征服者の中にもまた、多少の特権を得て、容易にこれに応ずるものが出て来る。すなわち被征服者の中の知識者が、征服者の階級に仲間入りをして、その征服事業に協力することとなる。そして権利と義務とが、両階級の間に、もっと適切に言えば、征服階級と被征服階級の一部分との間に、多少相互的になる。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9356-9541">この相互的ということは、いまだ不平等を生じない被征服階級に対する、絶好の瞞着手段であったのである。すなわち知識者は言う。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9541-9759">見よ、今やわが部落は征服階級のみの部落ではない。彼等はすでに先きの非を悟って被征服階級たる吾等に参政権を与えた。万人は法律の前に平等であると。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-9759-10043">なお種々なる事情は、一方に征服者をして諸種の譲歩をなさしめるとともに、また一方に被征服者をして空虚な誇りとおよびあきらめとに陥らしめる。そして両階級の間に、漸次に皮相的妥協を進めて行く。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10043-10302">僕は今、この征服の事実について、詳細を語る暇はない。けれども以上に述べた事実は、いやしくも正直なる社会学者たらんものの、恐らくは何人も非認することのできない事実である。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10302-10586">歴史は複雑だ。けれどもその複雑を一貫する単純はある。たとえば征服の形式はいろいろある。しかし古今を通じて、いっさいの社会には、必ずその両極に、征服者の階級と被征服者の階級とが控えている。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">再び『共産党宣言』を借りれば、「ギリシャの自由民と奴隷、ローマの貴族と平民、中世の領主と農奴、同業組合員と被雇職人」はすなわちこれである。そして近世に至って、社会は、資本家てう征服階級と、労働者てう被征服階級との両極に分れた。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10930-11085">社会は進歩した。したがって征服の方法も発達した。暴力と瞞着との方法は、ますます巧妙に組織立てられた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11085-11274">政治！　法律！　宗教！　教育！　道徳！　軍隊！　警察！　裁判！　議会！　科学！　哲学！　文芸！　その他いっさいの社会的諸制度</seg><g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-11274-11310">‼</g></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11312-11602">そして両極たる征服階級と被征服階級との中間にある諸階級の人々は、原始時代のかの知識者と同じく、あるいは意識的にあるいは無意識的に、これらの組識的暴力と瞞着との協力者となり補助者となっている。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11602-11898">この征服の事実は、過去と現在とおよび近き将来との数万あるいは数千年間の、人類社会の根本事実である。この征服のことが明瞭に意識されない間は、社会の出来事の何ものも、正当に理解することは許されない。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11898-12353">敏感と聡明とを誇るとともに、個人の権威の至上を叫ぶ文芸の徒よ。諸君の敏感と聡明とが、この征服の事実と、およびそれに対する反抗とに触れざる限り、諸君の作物は遊びである、戯れである。われわれの日常生活にまで圧迫して来る、この事実の重さを忘れしめんとする、あきらめである。組織的瞞着の有力なる一分子である。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12353-12710">われわれをしていたずらに恍惚たらしめる静的美は、もはやわれわれとは没交渉である。われわれは、エクスタシイと同時にアンツウジアスムを生ぜしめる動的美に憧れたい。われわれの要求する文芸は、かの事実に対する憎悪美と叛逆美との創造的文芸である。</seg></p>
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        <note type="source-attribution" source="#source-12718-12935"><seg type="source-line">底本：「全集・現代文学の発見　第一巻　最初の衝撃」學藝書林</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1968（昭和43）年9月10日第1刷発行</seg><lb/><seg type="source-line">初出：「近代思想　6月号」</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1913（大正2）年6月</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-12935-13279"><seg type="source-line">入力：山根鋭二</seg><lb/><seg type="source-line">校正：浜野　智</seg><lb/><seg type="source-line">1998年8月17日公開</seg><lb/><seg type="source-line">2017年1月27日修正</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（http://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
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