Soranoha

かの日の歌【二】

かのひのうた【二】

漢那 浪笛

◉

音なき秋の空をながめて、

木の葉は淡き吐息といきをもらし、

色みな、悲しきメロディなり。

時のまに〱泣きすぐる風に、

調べはいたく、狂ひわなゝき、

自然の胸の痛みは、更に深し。

黄ばめる木の葉は、翼をふるひ、

暗をもりたる、谷をみおろし、

渦まきながら、果ては消えゆく。

◉

こゝちよき南の朝、

空は薔薇ばら色の絹をのべ、

いろ鳥の歌は、若かき恋のごとく、

珠たまの響きをもてふるへり。

眼ざめし軟風、払手柑の花咲く

泉のほとりに、たわふれば、

かぐわしき名香、四方に散じ、

草葉にむすぶ露も、はら〱と散る。

あわれ、ユウカリ樹の下に、

たをやの髪を手にまきて、

若かき恋の別れを告げし、曙も、

今は、浮刻うきぼりの如く、空にうつらふ。

◉

なぎたる海の如き小夜さよなか。

香ひよき酒にさめて、

物すごき森の奥に、

極楽鳥の声をきくとき、

心は新らしき悲しみの眼をひらく。

南極星のなゝめに傾むき、

椰子の葉影にふるゝ頃まで、

色あせし唇に、「かの日の歌」をなせど、

たへなる音もなく、息は糸のごとく衰ろへ、

果敢なき涙して、喜びは吾れをさかりゆく。

◉

涙ぐみたる植民地の空。

あぢきなき労働を終へて、

榕樹の影に息いこふ黄昏たそがれよ!

息ふかき鐘の音は、愁人の声を偲ばせ、

収穫とりいれしさゝやかな穂束ほづかをながめて、

………かたパンを食ふに似たる生活くらしを思ふ。

底本 / Source edition

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※[#ローマ数字1、1-13-21]」国書刊行会
1991(平成3)年6月6日第1刷
初出:「琉球新報」
1911(明治44)年11月3日
※初出時の署名は「浪笛生」です。
入力:坂本真一
校正:良本典代
2016年12月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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漢那 浪笛「かの日の歌【二】」(新字旧仮名)、底本『沖縄文学全集 第1巻 詩Ⅰ』国書刊行会、1991年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 001310_001666, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite