Soranoha

かの日の歌【一】

かのひのうた【一】

漢那 浪笛

南の国の黄昏たそがれ、

空は紅き笑ひを残して静かなり。

想思樹の葉のねむたげにうなだれ、

かすかなるうめきをやする。

ああ淋しみ、心をなす、植民地の黄昏たそがれ!

椰子の並木を縫ひて、

灯火ともしびは紅き花と見まがう。

その時我が耳に訪づれし悲歌の哀さよ。

◉

小暗き森の奥に、

時々もれくる鬱憂うつゆうの月影つきかげ。

木の葉は眠りより醒めて、

あやしき夜色やしよくに顫ふるへ出す。

忽ち響く恐ろしき獣の声!

よろづのものは皆醒めはてぬ。

声かれて歯白ろき、獣と思へば、

吾はたゞ恐怖の為めに伏して在るのみ!

◉

白き墓たちならぶ国!

まへには荒磯ありその潮騒しおさい、………

絶えず訪づれ、

うしろには歓楽の歌きこえて、

また墓石を濡す、

哭泣の哀れも湧く。

こゝにして、悲しめる者相集あひつどひ、

匂ひよき酒を椰子の実に盛り、

互に口くちをすぼめて飲む時の

うれしさよ!

死は遂に吾れを慰め、………

人生の極きはみをのぞき見る。

◉

小鳥は、秋の空にさ迷ふ、

吾れは、一つの悲哀をとらへ、

小さき胸に隈くまなく乱る。

迷ひ、悲しみ、何の益ある、

小鳥よ来れ!手に手をとりて、

花咲き笑ふ南へさらむ。

底本 / Source edition

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※[#ローマ数字1、1-13-21]」国書刊行会
1991(平成3)年6月6日第1刷
初出:「琉球新報」
1911(明治44)年10月30日
※初出時の署名は「浪笛生」です。
入力:坂本真一
校正:良本典代
2016年12月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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漢那 浪笛「かの日の歌【一】」(新字旧仮名)、底本『沖縄文学全集 第1巻 詩Ⅰ』国書刊行会、1991年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 001202_001666, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite