## 一

森の中。三人の<ruby><rb>盗人</rb><rt>ぬすびと</rt></ruby>が宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ<ruby><rb>長靴</rb><rt>ながぐつ</rt></ruby>、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっ<ruby><rb>二</rb><rt>ぷた</rt></ruby>つに切れる<ruby><rb>剣</rb><rt>けん</rt></ruby>――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。

第一の盗人　そのマントルをこっちへよこせ。

第二の盗人　<ruby><rb>余計</rb><rt>よけい</rt></ruby>な事を云うな。その剣こそこっちへよこせ。――おや、おれの長靴を盗んだな。

第三の盗人　この長靴はおれの物じゃないか？　貴様こそおれの物を盗んだのだ。

第一の盗人　よしよし、ではこのマントルはおれが貰って置こう。

第二の盗人　こん<ruby><rb>畜生</rb><rt>ちくしょう</rt></ruby>！　貴様なぞに渡してたまるものか。

第一の盗人　よくもおれを<ruby><rb>撲</rb><rt>なぐ</rt></ruby>ったな。――おや、またおれの剣も盗んだな？

第三の盗人　何だ、このマントル泥坊め！

三人の者が<ruby><rb>大喧嘩</rb><rt>おおげんか</rt></ruby>になる。そこへ馬に<ruby><rb>跨</rb><rt>またが</rt></ruby>った王子が一人、森の中の路を通りかかる。

王子　おいおい、お前たちは何をしているのだ？　（馬から下りる）

第一の盗人　何、こいつが悪いのです。わたしの剣を盗んだ上、マントルさえよこせと云うものですから、――

第三の盗人　いえ、そいつが悪いのです。マントルはわたしのを盗んだのです。

第二の盗人　いえ、こいつ<ruby><rb>等</rb><rt>ら</rt></ruby>は二人とも大泥坊です。これは皆わたしのものなのですから、――

第一の盗人　嘘をつけ！

第二の盗人　この<ruby><rb>大法螺吹</rb><rt>おおぼらふ</rt></ruby>きめ！

三人また喧嘩をしようとする。

王子　待て待て。たかが古いマントルや、穴のあいた長靴ぐらい、誰がとっても<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いじゃないか？

第二の盗人　いえ、そうは行きません。このマントルは着たと思うと、姿の隠れるマントルなのです。

第一の盗人　どんなまた鉄の<ruby><rb>兜</rb><rt>かぶと</rt></ruby>でも、この剣で切れば切れるのです。

第三の盗人　この長靴もはきさえすれば、一飛びに千里飛べるのです。

王子　なるほど、そう云う宝なら、喧嘩をするのももっともな話だ。が、それならば<ruby><rb>欲張</rb><rt>よくば</rt></ruby>らずに、一つずつ分ければ<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いじゃないか？

第二の盗人　そんな事をしてごらんなさい。わたしの首はいつ<ruby><rb>何時</rb><rt>なんどき</rt></ruby>、あの剣に切られるかわかりはしません。

第一の盗人　いえ、それよりも困るのは、あのマントルを着られれば、何を盗まれるか知れますまい。

第二の盗人　いえ、何を盗んだ所が、あの長靴をはかなければ、思うようには逃げられない<ruby><rb>訣</rb><rt>わけ</rt></ruby>です。

王子　それもなるほど<ruby><rb>一理窟</rb><rt>ひとりくつ</rt></ruby>だな。では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか？　そうすれば心配も入らないはずだから。

第一の盗人　どうだい、この殿様に売ってしまうのは？

第三の盗人　なるほど、それも<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いかも知れない。

第二の盗人　ただ値段次第だな。

王子　値段は――そうだ。そのマントルの代りには、この赤いマントルをやろう、これには<ruby><rb>刺繍</rb><rt>ぬいとり</rt></ruby>の<ruby><rb>縁</rb><rt>ふち</rt></ruby>もついている。それからその長靴の代りには、この宝石のはいった靴をやろう。この<ruby><rb>黄金細工</rb><rt>きんざいく</rt></ruby>の<ruby><rb>剣</rb><rt>けん</rt></ruby>をやれば、その剣をくれても損はあるまい。どうだ、この値段では？

第二の盗人　わたしはこのマントルの代りに、そのマントルを頂きましょう。

第一の盗人と第三の盗人　わたしたちも申し分はありません。

王子　そうか。では取り<ruby><rb>換</rb><rt>か</rt></ruby>えて貰おう。

王子はマントル、剣、長靴等を取り換えた<ruby><rb>後</rb><rt>のち</rt></ruby>、また馬の上に<ruby><rb>跨</rb><rt>またが</rt></ruby>りながら、森の中の路を行きかける。

王子　この先に宿屋はないか？

第一の盗人　森の外へ出さえすれば「<ruby><rb>黄金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>角笛</rb><rt>つのぶえ</rt></ruby>」という宿屋があります。では御大事にいらっしゃい。

王子　そうか。ではさようなら。（去る）

第三の盗人　うまい商売をしたな。おれはあの長靴が、こんな靴になろうとは思わなかった。見ろ。<ruby><rb>止</rb><rt>と</rt></ruby>め<ruby><rb>金</rb><rt>がね</rt></ruby>には<ruby><rb>金剛石</rb><rt>ダイヤモンド</rt></ruby>がついている。

第二の盗人　おれのマントルも<ruby><rb>立派</rb><rt>りっぱ</rt></ruby>な物じゃないか？　これをこう着た所は、殿様のように見えるだろう。

第一の盗人　この剣も大した物だぜ。何しろ<ruby><rb>柄</rb><rt>つか</rt></ruby>も<ruby><rb>鞘</rb><rt>さや</rt></ruby>も<ruby><rb>黄金</rb><rt>きん</rt></ruby>だからな。――しかしああやすやす<ruby><rb>欺</rb><rt>だま</rt></ruby>されるとは、あの王子も<ruby><rb>大莫迦</rb><rt>おおばか</rt></ruby>じゃないか？

第二の盗人　しっ！　壁に耳あり、<ruby><rb>徳利</rb><rt>とくり</rt></ruby>にも口だ。まあ、どこかへ行って一杯やろう。

三人の盗人は<ruby><rb>嘲笑</rb><rt>あざわら</rt></ruby>いながら、王子とは反対の路へ行ってしまう。

## 二

「<ruby><rb>黄金</rb><rt>きん</rt></ruby>の<ruby><rb>角笛</rb><rt>つのぶえ</rt></ruby>」と云う宿屋の酒場。酒場の<ruby><rb>隅</rb><rt>すみ</rt></ruby>には王子がパンを<ruby><rb>噛</rb><rt>か</rt></ruby>じっている。王子のほかにも客が七八人、――これは皆村の農夫らしい。

宿屋の主人　いよいよ王女の<ruby><rb>御婚礼</rb><rt>ごこんれい</rt></ruby>があるそうだね。

第一の農夫　そう云う話だ。なんでも<ruby><rb>御壻</rb><rt>おむこ</rt></ruby>になる人は、黒ん坊の王様だと云うじゃないか？

第二の農夫　しかし王女はあの王様が<ruby><rb>大嫌</rb><rt>だいきら</rt></ruby>いだと云う<ruby><rb>噂</rb><rt>うわさ</rt></ruby>だぜ。

第一の農夫　嫌いなればお止しなされば<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いのに。

主人　ところがその黒ん坊の王様は、三つの宝ものを持っている。第一が千里飛べる<ruby><rb>長靴</rb><rt>ながぐつ</rt></ruby>、第二が鉄さえ切れる<ruby><rb>剣</rb><rt>けん</rt></ruby>、第三が姿の隠れるマントル、――それを皆<ruby><rb>献上</rb><rt>けんじょう</rt></ruby>すると云うものだから、欲の深いこの国の王様は、王女をやるとおっしゃったのだそうだ。

第二の農夫　<ruby><rb>御可哀</rb><rt>おかわい</rt></ruby>そうなのは王女御一人だな。

第一の農夫　誰か王女をお助け申すものはないだろうか？

主人　いや、いろいろの国の王子の中には、そう云う人もあるそうだが、何分あの黒ん坊の王様にはかなわないから、みんな指を<ruby><rb>啣</rb><rt>くわ</rt></ruby>えているのだとさ。

第二の農夫　おまけに欲の深い王様は、王女を人に盗まれないように、<ruby><rb>竜</rb><rt>りゅう</rt></ruby>の番人を置いてあるそうだ。

主人　何、竜じゃない、兵隊だそうだ。

第一の農夫　わたしが<ruby><rb>魔法</rb><rt>まほう</rt></ruby>でも知っていれば、まっ先に御助け申すのだが、――

主人　当り前さ、わたしも魔法を知っていれば、お前さんなどに<ruby><rb>任</rb><rt>まか</rt></ruby>せて置きはしない。（一同笑い出す）

王子　（突然一同の中へ飛び出しながら）よし心配するな！　きっとわたしが助けて見せる。

一同　（驚いたように）あなたが⁈

王子　そうだ、黒ん坊の王などは何人でも来い。（腕組をしたまま、一同を見まわす）わたしは片っ<ruby><rb>端</rb><rt>ぱし</rt></ruby>から<ruby><rb>退治</rb><rt>たいじ</rt></ruby>して見せる。

主人　ですがあの王様には、三つの宝があるそうです。第一には千里飛ぶ長靴、第二には、――

王子　鉄でも切れる剣か？　そんな物はわたしも持っている。この長靴を見ろ。この剣を見ろ。この古いマントルを見ろ。黒ん坊の王が持っているのと、<ruby><rb>寸分</rb><rt>すんぶん</rt></ruby>も違わない宝ばかりだ。

一同　（再び驚いたように）その靴が⁈　その剣が⁈　そのマントルが⁈

主人　（疑わしそうに）しかしその長靴には、穴があいているじゃありませんか？

王子　それは穴があいている。が、穴はあいていても、一飛びに千里飛ばれるのだ。

主人　ほんとうですか？

王子　（<ruby><rb>憐</rb><rt>あわれ</rt></ruby>むように）お前には<ruby><rb>嘘</rb><rt>うそ</rt></ruby>だと思われるかも知れない。よし、それならば飛んで見せる。入口の戸をあけて置いてくれ。<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いか。飛び上ったと思うと見えなくなるぞ。

主人　その前に<ruby><rb>御勘定</rb><rt>おかんじょう</rt></ruby>を頂きましょうか？

王子　何、すぐに帰って来る。<ruby><rb>土産</rb><rt>みやげ</rt></ruby>には何を持って来てやろう。イタリアの<ruby><rb>柘榴</rb><rt>ざくろ</rt></ruby>か、イスパニアの<ruby><rb>真桑瓜</rb><rt>まくわうり</rt></ruby>か、それともずっと遠いアラビアの<ruby><rb>無花果</rb><rt>いちじく</rt></ruby>か？

主人　<ruby><rb>御土産</rb><rt>おみやげ</rt></ruby>ならば何でも結構です。まあ飛んで見せて下さい。

王子　では飛ぶぞ。一、二、三！

王子は<ruby><rb>勢好</rb><rt>いきおいよ</rt></ruby>く飛び上る。が、戸口へも<ruby><rb>届</rb><rt>とど</rt></ruby>かない内に、どたりと<ruby><rb>尻餅</rb><rt>しりもち</rt></ruby>をついてしまう。

一同どっと笑い立てる。

主人　こんな事だろうと思ったよ。

第一の農夫　干里どころか、二三間も飛ばなかったぜ。

第二の農夫　何、千里飛んだのさ。一度千里飛んで置いて、また千里飛び返ったから、もとの所へ来てしまったのだろう。

第一の農夫　<ruby><rb>冗談</rb><rt>じょうだん</rt></ruby>じゃない。そんな<ruby><rb>莫迦</rb><rt>ばか</rt></ruby>な事があるものか。

一同大笑いになる。王子はすごすご起き上りながら、酒場の外へ行こうとする。

主人　もしもし御勘定を置いて行って下さい。

王子無言のまま、<ruby><rb>金</rb><rt>かね</rt></ruby>を投げる。

第二の農夫　御土産は？

王子　（剣の<ruby><rb>柄</rb><rt>つか</rt></ruby>へ手をかける）何だと？

第二の農夫　（尻ごみしながら）いえ、何とも云いはしません。（独り<ruby><rb>語</rb><rt>ごと</rt></ruby>のように）剣だけは首くらい<ruby><rb>斬</rb><rt>き</rt></ruby>れるかも知れない。

主人　（なだめるように）まあ、あなたなどは<ruby><rb>御年若</rb><rt>おとしわか</rt></ruby>なのですから、<ruby><rb>一先</rb><rt>ひとまず</rt></ruby><ruby><rb>御父様</rb><rt>おとうさま</rt></ruby>の御国へお帰りなさい。いくらあなたが<ruby><rb>騒</rb><rt>さわ</rt></ruby>いで見たところが、とても黒ん坊の王様にはかないはしません。とかく人間と云う者は、何でも身のほどを忘れないように<ruby><rb>慎</rb><rt>つつし</rt></ruby>み深くするのが<ruby><rb>上分別</rb><rt>じょうふんべつ</rt></ruby>です。

一同　そうなさい。そうなさい。悪い事は云いはしません。

王子　わたしは何でも、――何でも出来ると思ったのに、（突然涙を落す）お前たちにも<ruby><rb>恥</rb><rt>は</rt></ruby>ずかしい（顔を隠しながら）ああ、このまま消えてもしまいたいようだ。

第一の農夫　そのマントルを着て御覧なさい。そうすれば消えるかも知れません。

王子　<ruby><rb>畜生</rb><rt>ちくしょう</rt></ruby>！（じだんだを踏む）よし、いくらでも<ruby><rb>莫迦</rb><rt>ばか</rt></ruby>にしろ。わたしはきっと黒ん坊の王から可哀そうな王女を助けて見せる。長靴は千里飛ばれなかったが、まだ剣もある。マントルも、――（一生懸命に）いや、<ruby><rb>空手</rb><rt>からて</rt></ruby>でも助けて見せる。その時に<ruby><rb>後悔</rb><rt>こうかい</rt></ruby>しないようにしろ。（気違いのように酒場を飛び出してしまう。）

主人　困ったものだ、黒ん坊の王様に殺されなければ<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いが、――

## 三

王城の庭。<ruby><rb>薔薇</rb><rt>ばら</rt></ruby>の花の中に<ruby><rb>噴水</rb><rt>ふんすい</rt></ruby>が<ruby><rb>上</rb><rt>あが</rt></ruby>っている。<ruby><rb>始</rb><rt>はじめ</rt></ruby>は誰もいない。しばらくの<ruby><rb>後</rb><rt>のち</rt></ruby>、マントルを着た王子が出て来る。

王子　やはりこのマントルは着たと思うと、たちまち姿が隠れると見える。わたしは城の門をはいってから、兵卒にも<ruby><rb>遇</rb><rt>あ</rt></ruby>えば<ruby><rb>腰元</rb><rt>こしもと</rt></ruby>にも<ruby><rb>遇</rb><rt>あ</rt></ruby>った。が、誰も<ruby><rb>咎</rb><rt>とが</rt></ruby>めたものはない。このマントルさえ着ていれば、この<ruby><rb>薔薇</rb><rt>ばら</rt></ruby>を吹いている風のように、王女の部屋へもはいれるだろう。――おや、あそこへ歩いて来たのは、<ruby><rb>噂</rb><rt>うわさ</rt></ruby>に聞いた王女じゃないか？　どこかへ一時身を隠してから、――何、そんな必要はない、わたしはここに立っていても、王女の眼には見えないはずだ。

王女は噴水の<ruby><rb>縁</rb><rt>ふち</rt></ruby>へ来ると、悲しそうにため息をする。

王女　わたしは何と云う不仕合せなのだろう。もう一週間もたたない内に、あの<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>らしい黒ん坊の王は、わたしをアフリカへつれて行ってしまう。

<ruby><rb>獅子</rb><rt>しし</rt></ruby>や<ruby><rb>鰐</rb><rt>わに</rt></ruby>のいるアフリカへ、（そこの<ruby><rb>芝</rb><rt>しば</rt></ruby>の上に坐りながら）わたしはいつまでもこの城にいたい。この薔薇の花の中に、噴水の音を聞いていたい。……

王子　何と云う美しい王女だろう。わたしはたとい命を捨てても、この王女を助けて見せる。

王女　（驚いたように王子を見ながら）誰です、あなたは？

王子　（独り<ruby><rb>語</rb><rt>ごと</rt></ruby>のように）しまった！　声を出したのは悪かったのだ！

王女　声を出したのが悪い？　<ruby><rb>気違</rb><rt>きちが</rt></ruby>いかしら？　あんな可愛い顔をしているけれども、――

王子　顔？　あなたにはわたしの顔が見えるのですか？

王女　見えますわ。まあ、何を<ruby><rb>不思議</rb><rt>ふしぎ</rt></ruby>そうに考えていらっしゃるの？

王子　このマントルも見えますか？

王女　ええ、ずいぶん古いマントルじゃありませんか？

王子　（<ruby><rb>落胆</rb><rt>らくたん</rt></ruby>したように）わたしの姿は見えないはずなのですがね。

王女　（驚いたように）どうして？

王子　これは一度着さえすれば、姿が隠れるマントルなのです。

王女　それはあの黒ん坊の王のマントルでしょう。

王子　いえ、これもそうなのです。

王女　だって姿が隠れないじゃありませんか？

王子　<ruby><rb>兵卒</rb><rt>へいそつ</rt></ruby>や<ruby><rb>腰元</rb><rt>こしもと</rt></ruby>に<ruby><rb>遇</rb><rt>あ</rt></ruby>った時は、確かに姿が隠れたのですがね。その<ruby><rb>証拠</rb><rt>しょうこ</rt></ruby>には誰に遇っても、<ruby><rb>咎</rb><rt>とが</rt></ruby>められた事がなかったのですから。

王女　（笑い出す）それはそのはずですわ。そんな古いマントルを着ていらっしゃれば<ruby><rb>下男</rb><rt>げなん</rt></ruby>か何かと思われますもの。

王子　下男！（落胆したように坐ってしまう）やはりこの長靴と同じ事だ。

王女　その長靴もどうかしましたの？

王子　これも千里飛ぶ長靴なのです。

王女　黒ん坊の王の長靴のように？

王子　ええ、――ところがこの<ruby><rb>間</rb><rt>あいだ</rt></ruby>飛んで見たら、たった二三間も飛べないのです。御覧なさい。まだ<ruby><rb>剣</rb><rt>けん</rt></ruby>もあります。これは鉄でも切れるはずなのですが、――

王女　何か切って御覧になって？

王子　いえ、黒ん坊の王の首を<ruby><rb>斬</rb><rt>き</rt></ruby>るまでは、何も斬らないつもりなのです。

王女　あら、あなたは黒ん坊の王と、<ruby><rb>腕競</rb><rt>うでくら</rt></ruby>べをなさりにいらしったの？

王子　いえ、腕競べなどに来たのじゃありません。あなたを助けに来たのです。

王女　ほんとうに？

王子　ほんとうです。

王女　まあ、嬉しい！

突然黒ん坊の王が現れる。王子と王女とはびっくりする。

黒ん坊の王　<ruby><rb>今日</rb><rt>こんにち</rt></ruby>は。わたしは今アフリカから、一飛びに飛んで来たのです。どうです、わたしの長靴の力は？

王女　（冷淡に）ではもう一度アフリカへ行っていらっしゃい。

王　いや、<ruby><rb>今日</rb><rt>きょう</rt></ruby>はあなたと一しょに、ゆっくり御話がしたいのです。（王子を見る）誰ですか、その下男は？

王子　下男？（腹立たしそうに立ち上る）わたしは王子です。王女を助けに来た王子です。わたしがここにいる限りは、指一本も王女にはささせません。

王　（わざと<ruby><rb>叮嚀</rb><rt>ていねい</rt></ruby>に）わたしは三つの宝を持っています。あなたはそれを知っていますか？

王子　剣と長靴とマントルですか？　なるほどわたしの長靴は一町も飛ぶ事は出来ません。しかし王女と一しょならば、この長靴をはいていても、千里や二千里は驚きません。またこのマントルを御覧なさい。わたしが下男と思われたため、王女の前へも来られたのは、やはりマントルのおかげです。これでも王子の姿だけは、隠す事が出来たじゃありませんか？

王　（<ruby><rb>嘲笑</rb><rt>あざわら</rt></ruby>う）<ruby><rb>生意気</rb><rt>なまいき</rt></ruby>な！　わたしのマントルの力を見るが好い。（マントルを着る。同時に消え失せる）

王女　（手を打ちながら）ああ、もう消えてしまいました。わたしはあの人が消えてしまうと、ほんとうに嬉しくてたまりませんわ。

王子　ああ云うマントルも便利ですね。ちょうどわたしたちのために出来ているようです。

王　（突然また現われる。<ruby><rb>忌々</rb><rt>いまいま</rt></ruby>しそうに）そうです。あなた方のために出来ているようなものです。わたしには役にも何にもたたない。（マントルを投げ捨てる）しかしわたしは剣を持っている。（急に王子を<ruby><rb>睨</rb><rt>にら</rt></ruby>みながら）あなたはわたしの幸福を奪うものだ。さあ尋常に勝負をしよう。わたしの剣は鉄でも切れる。あなたの首位は何でもない。（剣を抜く）

王女　（立ち上るが早いか、王子をかばう）鉄でも切れる剣ならば、わたしの胸も突けるでしょう。さあ、一突きに突いて御覧なさい。

王　（尻ごみをしながら）いや、あなたは<ruby><rb>斬</rb><rt>き</rt></ruby>れません。

王女　（<ruby><rb>嘲</rb><rt>あざけ</rt></ruby>るように）まあ、この胸も突けないのですか？　鉄でも斬れるとおっしゃった癖に！

王子　お待ちなさい。（王女を押し<ruby><rb>止</rb><rt>とど</rt></ruby>めながら）王の云う事はもっともです。王の敵はわたしですから、尋常に勝負をしなければなりません。（王に）さあ、すぐに勝負をしよう。（剣を抜く）

王　年の若いのに感心な男だ。<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>いか？　わたしの剣にさわれば命はないぞ。

王と王子と剣を打ち合せる。するとたちまち王の剣は、<ruby><rb>杖</rb><rt>つえ</rt></ruby>か何か切るように、王子の剣を切ってしまう。

王　どうだ？

王子　剣は切られたのに違いない。が、わたしはこの通り、あなたの前でも笑っている。

王　ではまだ勝負を続ける気か？

王子　あたり前だ。さあ、来い。

王　もう勝負などはしないでも<ruby><rb>好</rb><rt>い</rt></ruby>い。（急に剣を投げ捨てる）勝ったのはあなただ。わたしの剣などは何にもならない。

王子　（不思議そうに王を見る）なぜ？

王　なぜ？　わたしはあなたを殺した所が、王女にはいよいよ<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>まれるだけだ。あなたにはそれがわからないのか？

王子　いや、わたしにはわかっている。ただあなたにはそんな事も、わかっていなそうな気がしたから。

王　（考えに沈みながら）わたしには三つの宝があれば、王女も貰えると思っていた。が、それは間違いだったらしい。

王子　（王の肩に手をかけながら）わたしも三つの宝があれば、王女を助けられると思っていた。が、それも間違いだったらしい。

王　そうだ。我々は二人とも間違っていたのだ。（王子の手を取る）さあ、<ruby><rb>綺麗</rb><rt>きれい</rt></ruby>に仲直りをしましょう。わたしの<ruby><rb>失礼</rb><rt>しつれい</rt></ruby>は<ruby><rb>赦</rb><rt>ゆる</rt></ruby>して下さい。

王子　わたしの失礼も赦して下さい。今になって見ればわたしが勝ったか、あなたが勝ったかわからないようです。

王　いや、あなたはわたしに勝った。わたしはわたし自身に勝ったのです。（王女に）わたしはアフリカへ帰ります。どうか御安心なすって下さい。王子の剣は鉄を切る代りに、鉄よりももっと堅い、わたしの心を刺したのです。わたしはあなた方の<ruby><rb>御婚礼</rb><rt>ごこんれい</rt></ruby>のために、この剣と長靴と、それからあのマントルと、三つの宝をさし上げましょう。もうこの三つの宝があれば、あなた方二人を苦しめる敵は、世界にないと思いますが、もしまた何か悪いやつがあったら、わたしの国へ知らせて下さい。わたしはいつでもアフリカから、百万の黒ん坊の<ruby><rb>騎兵</rb><rt>きへい</rt></ruby>と一しょに、あなた方の敵を<ruby><rb>征伐</rb><rt>せいばつ</rt></ruby>に行きます。（悲しそうに）わたしはあなたを迎えるために、アフリカの都のまん中に、大理石の御殿を建てて置きました。その御殿のまわりには、一面の<ruby><rb>蓮</rb><rt>はす</rt></ruby>の花が咲いているのです。（王子に）どうかあなたはこの長靴をはいたら、時々遊びに来て下さい。

王子　きっと<ruby><rb>御馳走</rb><rt>ごちそう</rt></ruby>になりに行きます。

王女　（黒ん坊の王の胸に、<ruby><rb>薔薇</rb><rt>ばら</rt></ruby>の花をさしてやりながら）わたしはあなたにすまない事をしました。あなたがこんな<ruby><rb>優</rb><rt>やさ</rt></ruby>しい方だとは、夢にも知らずにいたのです。どうかかんにんして下さい。ほんとうにわたしはすまない事をしました。（王の胸にすがりながら、子供のように泣き始める）

王　（王女の<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>を<ruby><rb>撫</rb><rt>な</rt></ruby>でながら）<ruby><rb>有難</rb><rt>ありがと</rt></ruby>う。よくそう云ってくれました。わたしも<ruby><rb>悪魔</rb><rt>あくま</rt></ruby>ではありません。悪魔も同様な黒ん坊の王は<ruby><rb>御伽噺</rb><rt>おとぎばなし</rt></ruby>にあるだけです。（王子に）そうじゃありませんか？

王子　そうです。（見物に向いながら）皆さん！　我々三人は目がさめました。悪魔のような黒ん坊の王や、三つの宝を持っている王子は、御伽噺にあるだけなのです。我々はもう目がさめた以上、御伽噺の中の国には、住んでいる<ruby><rb>訣</rb><rt>わけ</rt></ruby>には行きません。我々の前には<ruby><rb>霧</rb><rt>きり</rt></ruby>の奥から、もっと広い世界が浮んで来ます。我々はこの薔薇と噴水との世界から、一しょにその世界へ出て行きましょう。もっと広い世界！　もっと<ruby><rb>醜</rb><rt>みにく</rt></ruby>い、もっと美しい、――もっと大きい御伽噺の世界！　その世界に我々を待っているものは、苦しみかまたは楽しみか、我々は何も知りません。ただ我々はその世界へ、勇ましい一隊の兵卒のように、進んで行く事を知っているだけです。

（大正十一年十二月）