Soranoha

右門捕物帖

うもんとりものちょう

佐々木 味津三

1

その第二十九番てがらです……。

事の起きたのは四月初め。――もう春も深い。

小唄こうたにも、浮かれ浮かれて大川を、下る猪牙ちょき船影淡く、水にうつろうえり足は、紅の色香もなんじゃやら、エエまあ憎らしいあだ姿、という穏やかでないのがあるとおり、江戸も四月の声をきくとまず水からふぜいが咲いて、深川あたり大川の里、女もそろそろ色づくが、四月はまた仏にも縁が深い。――花御堂はなみどうの灌仏会かんぶつえ、お釈迦しゃかさまも裸になって、善男善女が浮かれだして、赤い信女がこっそり寺の庫裡くりへ消えて、数珠じゅずと杯を両手の生き仏から怪しい引導を渡されるのもこの月にしばしば聞くうわさの一つです。

朝、あけてまだ日も上がらないうちでした。その仏に縁の多い寺社奉行所ぶぎょうしょから、不意に不思議なお差し紙が、名人の寝床へ訪れました。

「当奉行所にては手に余る珍事出来しゅったいいたし候そうろうあいだ、ぜひにお力添え願いたく、右折り入って申し入り候。

深川興照寺にて、一昨夜石仏六基盗難に会い候ところ、今朝にいたり永代橋上に右六基とも捨てある由、同寺より届けいでこれあり候そうらえども、いささか不審にたえざる節々これあり候えば、火急にご詮議せんぎくだされたく、南町奉行所のほうへは当所よりしかるべくごあいさついたしおくべく候あいだ、その儀ご懸念これなく、即刻ご出馬願い入り侯」

そういうお差し紙でした。

「茶にしたことをいってきたね」

伸び上がりながら、拾い読みをして、さっそく音をあげたのは伝六です。

「品が違うんだ、品がね。どうせおすけだちをお願い申すんだったら、もっとしゃれた話を持ち込みゃいいのに、たわいもねえことをぎょうさんに騒ぎたてて珍事出来が聞いてあきれるじゃござんせんか。なくなったしろものが出てきたんだったら、橋の上にあろうと、うなぎ屋の二階にあろうと、めでたしめでたしでけっこう話ア済んでいるんだからね。まさかにお出かけなさるんじゃありますまいね」

「…………」

「え! ちょっと!――やりきれねえな、行くんですかい」

「…………」

「ね! ちょっと! 品が違うんですよ、品がね。寺社奉行所にだって人足アいくらでもあるんだからね。越後えちごから米つきに頼まれたんじゃあるめえし、こんなちゃちな詮議にのこのことお出ましになりゃ、貫禄かんろくがなくなりますよ、貫禄がね。――え! だんな! ね、ちょっと!――かなわねえな。やけに急いでおしたくをしていらっしゃいますが、まさかにお出かけになるんじゃありますまいね」

しかし、名人右門の考え方は、おのずからまた別でした。なるほど、伝六のいうとおり、お差し紙の文面に現われたあな(事件)そのものはまことにたわいのなさそうなことではあるが、係り違いの寺社奉行所から特に出馬を懇請してきたところに味があるのです。

「はええところ、しりっぱしょりでもやりなよ」

「へ……?」

「行くんだよ」

「あきれたね。お江戸名代はいろいろあれど、知恵伊豆様にむっつり右門、この名物があるうちは、八百八町高まくらってえいうはやり歌があるくれえじゃござんせんか、虫のせいでお出ましなさるなら悪止めしやしませんが、江戸に名代のそのだんながお安くひょこひょこと飛び出して、あとでかれこれ文句をおっしゃったって、あっしゃ知りませんぜ」

「うるせえやッ」

「へえへ……おわるうござんした。行きますよ。えええ、参りますとも! どうせあっしゃうるせえ野郎なんだからね。じゃまになるとおっしゃるならば、あごをはずしてでも、口に封印してでもめえりますがね、ものにゃけじめってえものがあるんだ。買って出て男の上がるときと、でしゃばって顔のすたるときとあるんだからねえ。それをいうんですよ、それをね。ましてや、相手は石仏なんだ。ものを一ついうじゃなし、あいきょう笑い一つするじゃなし、――えッへへ。でも、いいお天気だね。え! だんな! どうですかよ、この朗らかさってえものは! 勤めがなくて、ぽっぽにたんまりおこづけえがあって、べっぴん片手に船遊山ふなゆさん、チャカホイ、チャカホイ、チャカチャカチャ――と、いけませんかね。けえりに中州あたりへ船をつけて……パイイチやったら長生きしますぜ、ね、ちょいと。またやかましくしゃべってうるせえですかい」

まったく、こやつにかかってはかなわない。鳴ったかと思えばきげんが直り、直ったかと思えば途方もなく浮かれだして、口やかましくたたいているうちに道は稲荷橋いなりばしまで一本道、その中州へ渡って駕籠かごもまた早いのです。――橋上に捨てある由。興照寺より届けいでこれあり候とあったその永代橋へたどりついてみると、名人の出馬いまかいまかとかたずをのんで、寺社奉行ご支配の小者たちが群がり集まる群衆を制しつつ、その到着を待ちあぐんでいるさいちゅうでした。

「ご無理願いまして恐れ入ります」

「どうつかまつりまして、お役にたちますならばいつなりと。――念までもござるまいが、石仏は六基ともそのまま手つけずにお置きでありましょうな」

「はッ。たいせつなご詮議せんぎの妨げになってはと存じまして、てまえどもはもとより、通行人どもにも指一本触れさせず、先ほどからずっとこのとおりやかましく追いたてて、お越しをお待ち申していたのでござります」

「それはなにより。てまえの力でらちが明きますかどうか。では、拝見いたしますかな」

軽く会釈しながら近よってみると、なるほど、橋の中ほどの欄干ぎわに、ずらりと六基の石仏が置いてあるのです。いずれも丈たけは五尺ばかりの地蔵尊でした。

しかし、これがただ並べて置いてあるんではない。六体ともに鼻は欠かれ、耳はそがれ、目、口、手足、いたるところ無数の傷を負って、あまつさえ慈悲忍辱にんにくのおつむには見るももったいなや、馬の古わらじが一つずつのせてあるのです。しかも、気味のわるいことには、何がどうしたというのか、その六体の地蔵尊の前に向き合って、いかにも可憐かれんらしく小さい小坊主が、ものもいわず、にこりともせず、白衣びゃくえのえりを正しながら、ちょこなんと置き物のようにすわっているのでした。

「ちぇッ。やだね。生きてるんですかい」

見るが早いか、ここぞとばかり、たちまちやかましく早太鼓を鳴らしだしたのはおしゃべり屋です。

「てへへ、おどろいたね。え! ちょいと! なんてまあこまっけえんだろうね。豆に目鼻をけえたにしても、これほど小さかねえですよ。――ね、和尚おしょう、豆大将、おまえさんそれでも息の穴が通っているのかい」

「これはいらっしゃい。おはようございます」

「ウッフフ。あきれたもんだね。生意気に生きていらあ。ね、ちょっと。こんなにこまっかくとも、ちゃんと一人まえにものをいうんですよ。ようよう。笑やがった、笑やがった。気味がわるいね。え! ちょっと! どっちにしてもただものじゃねえですぜ。あつらえたって、こんな小造りなのはめったにできねえんだからね。なんぞこの豆和尚にいわくがあるにちげえねえですぜ」

まったく小さい。澄ましてちんまりとすわっているところが、またいかにも子細ありげに見えるのです。もちろん、名人もいいようのないいぶかしさに打たれて、小者をさし招くと、こっそりきき尋ねました。

「あれは?」

「どうもそれが少しおかしいんですよ。ご詮議のじゃまになるからどけどけといって、どんなにしかっても、あたしがいなくなりますとお地蔵さまが寂しがりますゆえどきませぬと、このように言い張って、先ほどからあそこにちんまりとすわったままなのでござります」

「ほほう。変わったことを申しますのう。何かなぞを持っておるやもしれませぬゆえ、当たってみましょう。――お小僧さん、こんにちは。いいお天気でござりますな」

「はい、こんにちは。わたくしもさように思います」

くるくると目をみはりながら、涼しい声でいってのけて、いうことがまた禅味たっぷり、弁舌がまた小粒に似あわず気味のわるいくらいにさわやかでした。

「おじさん、遠いところをご苦労でございまするな。お寺ならばお茶なとさし上げられますのに、このようなところではおもてなしもできませず、おきのどくでござります」

「あはは。これはごあいさつ、痛み入りました。お寺ならばと申しましたところをみますと、では、そなた興照寺のお小僧さんでありましょうのう」

「あい。珍念と申します」

「ほほう、珍念さんとのう。姿に似合うたよい名でありますこと。お年は?」

「九つでござります」

「去年は?」

「八つでござりました」

「来年は?」

「十になるはずでござりますけれど、なってみねばわかりませぬ」

「あはは。なかなかりこうなことをおっしゃる。ほんとうにそうでありますのう。あした病気にでもなりましたならば、み仏のおそばへ行かねばなりますまいからのう。そのおりこうなそなたがまた、どうしたわけでお役人のおさしずもきかず、そんなところにすわっているのでござります?」

「いいえ、あの、お役人さまのおさしずにさからったのではござりませぬ。あの、あの――」

珍念、何を答えるかと思われたのに、きくも天真爛漫らんまん、こともなげにいってのけました。

「わたくしは、このお地蔵さまと大の仲よしだからでござります」

「なに! 仲よしでありますとのう。どんなふうに仲がよいのでござります?」

「毎朝毎晩、お水をあげるのもわたくし、お花を進ぜますのもわたくし。このお地蔵さまのお世話は、何から何までみんなこの珍念がしてあげたのでござります。それゆえ、ひと朝なりともお世話欠かしましては、お地蔵さまもさぞかしお寂しかろうと存じまして、けさもこのとおり急いでやって参りました。そこをようごろうじませ。お花もござります。お水もござります。みんなそれは仲よしのこの珍念がお上げ申したのでござります」

いかさま、よくよく見ると、小坊主珍念さながらのような、いかにもかわいらしく小さい竹筒に、ちんまりといじらしくも小さい花をたむけて、水もまたちゃんと供えてあるのです。

「なるほどのう。では、そなたこの地蔵さまがどうしてこんなところへ、このようなお姿にされて捨てられたか、それもこれもみんなご存じでござりまするな」

「いいえ! 知りませぬ! 存じませぬ! だれがこんなおかわいそうなめにお会わせ申したのやら。きのうの朝でござりました。いつものとおり、お花と水を進ぜに参りましたところ、ふいっとこのお地蔵さまが消えてなくなっておりましたゆえ、わたしを捨ててどこへお逃げなさいましたやらと、ゆうべひと晩じゅう泣いておりましたら、けさほど檀家だんかのおかたが、ここにおいでと知らしてくださいましたゆえ、ころころと飛んでまいったのでござります」

「ほほうのう。では、それゆえなつかしゅうてなつかしゅうて、いかほどお役人がたにしかられましても、おそばを離れることができませんなんだというのでござりまするな」

「あい。そのとおりでござります。それに、このお地蔵さまたちは、うちのお師さまとは因縁の深い、だいじなだいじな守り仏でござりますゆえ、仲よしの珍念がお師さまに代わってお守り申しあげたら、さぞかしお喜びでござりましょうと存じまして、いっしょうけんめいお話し相手になっていたのでござります」

「なに! お師さまには因縁の深いお地蔵さまとのう。どんな因縁でござります?」

「どんなもこんなもありませぬ。この六地蔵さまは、うちのお寺がご本寺の一真寺さまから分かれてまいりましたとき、新寺のお守り仏としていっしょにいただいてまいりました分かれ地蔵でござります」

「といいますると、では、そのご本寺の一真寺とやらにも、これと同じようなお地蔵さまがおありなさるのでござりまするな」

「あい。あちらにも残りのお地蔵さまがやはり六体ござります。合わせて十二体ござりましたゆえ、十二地蔵とも、また女人にょにん地蔵とも申しまして、一真寺においでのころから評判のお地蔵さまでござりました」

「なに! 女人地蔵とのう! それはまたどうしたわけからでござります?」

「あちらの六体のお施主も、これをご寄進なさいましたかたがたも、みんなそろうて女のかたばかりでござりますゆえ、だれいうとなく一真寺の女人地蔵といいだしたのでござります。うそじゃと思うたら、おじさんも字が読めるはず、お地蔵さまたちのお背中をようごろうじませ。ちゃんとお奇特なかたがたのお名まえが刻んでござります」

「はあてね。べらぼうめ。おらだっても字ぐれえ読めるんだ。どれどれ、どこにあります? え! ちょいと! 手もなく読んでやるから、どこに彫ってありますかい」

出ないでもいいのに、しゃきり出たあいきょう者ともども、うしろへ回ってみると、なるほど女名まえがどれにも彫りつけてあるのです。

「本所外手町弁天小路たま」というのが一基。

「深川安宅あたか町大口横町すず」というのが一つ。

「日本橋小網町貝杓子店かいじゃくしだなすえ」というのが一体。

「浅草花川戸町戸沢長屋しげ」というのが一つ。

「深川摩利支天まりしてん横町ひさ」というのが一基。

「日本橋亀島かめじま町紅梅新道まつ」というのが一体。

しかも、六地蔵ともに寄進の年月はついおととしの、日もまたそろって同じ灌仏会かんぶつえのある四月八日でした。

故意か、ただのいたずらか、なぞを解くかぎはここに一つあるにちがいない!

読み終わると同時に、きらりと鋭く名人の目のさえたのは当然。声もまた鋭くさえて、今なおちんまりとすわったままでいる珍念のところへ飛びました。

「そなた、もとよりこの女たちの素姓、お知りでありましょうの」

「いえ。あの……あの珍念はまだ年がいきませぬゆえ、女のことはなに一つ知りませぬ。でも、あの……」

「なんじゃ!」

「そのかたたちはどのような素姓やら少しも存じませぬが、うちのお寺にはたいせつなたいせつなお檀家だんかとやらで、お参詣さんけいのたびごとにお師さまもたいそうごていねいにおもてなしでござります」

「ほほうのう。そのお師さまはおいくつくらいじゃ。さだめし、もうよほどのお年でありましょうのう」

「いえ。ことしようやく二十三でござります」

「なに! ただの二十三でござりますとのう。そんなお年で一寺のお住職になられるとは、ちと若すぎるようじゃが、よほどおできのかたでござりまするか」

「あい。お本寺の一真寺のほうにおいでのころから評判のおかたでござりましたゆえ、なくなられました大和尚おしょうさまもたいそうお力を入れて、わざわざ今の興照寺をお建立こんりゅうのうえ、ご住職におすえ申しましたとやらいうお話でござります」

「なるほどのう。お姿は?」

「は?……」

「そのお師さまのお様子じゃ。ご美男でござりまするか」

「ええもう、それはそれは、お気高くて、やさしゅうて、絵からぬけ出たように美しい若上人わかしょうにんさまでござります」

さらに光った。――そこにもなぞを解くかぎが一つあるにちがいない。否! 絵から抜け出たようなといったその美男のところに、なぞの山へ分け入る秘密の間道があるに相違ないのです。しかも、寄進についている六地蔵のその施主は、身分素姓年ごろこそわからぬ、いずれもなまめかしく艶えんな下町女らしい名まえばかりでした。

故意か?

いたずらか?

それとも、故意はこいであっても、恋のこいであるか?

「えへへ。やっぱり、足まめに出かけてくるもんだね。ちくしょうめ。さあ、穏やかでねえぞ。安珍清姫の昔からあるんだ。べっぴんの若いご上人しょうにんさまがあって、ぽうとなった女の子があって、会いたい、見たい、添いとげたい。ままになるならついでのことに、ときどき尊い引導も授けてもらいたい、――とね。陰にこもって日参をしてみたが、生き仏さまにはとうからもう女人地蔵がついているんだ、それもこの背中の名まえどおり六人もそろってね。だから、おこぼれさえもちょうだいできねえというんで、ええくやしい、腹がたつ、憎いはこの地蔵とばかり、たちまち女の一念嫉刃ねたばに凝って、こんなよからぬわるさをしたにちげえねえですよ。ええ、そうですとも! べらぼうめ。思っただけでもくやしいね。たびたびいうせりふだが、江戸の女がおらに断わりもしねえで、かれこれと浮いたまねをするってえ法はねえんだ。ね! ちょっと! しゃべってまたうるせえですかい」

ここをせんどとやかましく始めたのを、名人は柳に風と聞き流しながら、子細に六地蔵の傷個所を見しらべました。――どの傷もどの傷も、ぐいとひと欠けに欠けて、使った得物はどうやら金づちらしく、しかもところきらわずめったやたらにぶちこわしているところを見ると、ただのいたずらだったら格別、もし故意にやったことならば、遺恨のもとがなんであるにしろ、下手人はまた何者であるにしろ、まさしくこれを人目にさらして、この六地蔵菩薩ぼさつと、その寄進者を恥ずかしめようという目的のもとに行なわれた暴行にちがいないのです。

「ウフフ。手がかりは何もない。落とし物もなに一つない。あるものはおつむにのっかっている古わらじばかりだとすると、頼みの綱はおいらの知恵蔵一つだ。――干そうぜ!」

「え……?」

「おまえにいってるんじゃねえ。まだちっと季節に早いが、早手回しに知恵蔵の虫干ししようかと、おいら、おいらに相談しているんだ。――珍念さん」

「はい。朝のお斎ときいただかずに駆けだしてまいりましたゆえ、少しおなかがひもじゅうなりました」

「おきのどくにのう。もうこれでご用済みになるゆえ、はよう帰ってたんといただきなさいよ。そなたのお寺はどこでござる?」

「興照寺ならば、あの……あの、あれでござります。あそこの火の見やぐらの向こうに見える高いお屋根がそうでござります」

指さした川下の左手に目をやると、なるほど、川にのぞんで水もやの中からくっきりと空高く浮き上がりながら、朝日にきらきらと照りはえているいらかの尾根が見えました。橋からの距離は約六、七町ばかり。

「一真寺は?」

「ご本堂は、ほら、あの、あれでござります。川をはさんでうちのお寺とにらめっこをしている右側の、あの高いお屋根がご本堂でござります」

いかさま、ちょうどその真向かいの、松平越前えちぜん侯お下屋敷とおぼしきひと構えのこちらに、さながら何かの因縁ごとででもあるかのごとく、黙々として屋根の背中を光らせながらそびえ立っている堂宇が見えるのです。

「にらめっことはうまいことをいいましたね。ほんとうに、屋根と屋根とがけんかをしているようだ。分かれ地蔵がこのありさまならば、一真寺のお残り地蔵も気にかかる。十八番のからめ手詮議でぴしぴしとたたき上げていってみようよ。――ご出役のかたがた、ご苦労さまでした。ちっと回り道のようだが、これがあっしの流儀です。一真寺のほうから洗ってみましょうからね。この六地蔵さまともども、どうぞもうお引き揚げくださいまし。珍念さんもね、仲よしのお菩薩ぼさつさまがこのとおりたいへんなおけがだ。こっちのお役人さまにてつだっていただいて、お寺へお連れ申してから、せいぜいお看病してあげなさいよ」

「あい、おじさん。今度またお目にかかりましたら、お地蔵さまともお相談をして、おはぎをどっさりおもてなしいたします。さようなら……」

愛くるしい声をあとにして、まず目ざしたところは、むしろ意外といっていいご本寺の一真寺なのでした。これこそは忘れてはならぬ右門流十八番中の十八番、一見迂遠うえんに見えて迂遠でない、遠回りしていって、事の起こりの根から探り出す名人独自のからめ手詮議なのです。――急ぐほどに、しっとりと沈んだ朝の大気の中を漂って、目ざしたその一真寺の境内から、しだいに強く線香のにおいが近づきました。

2

「へへえ。いばってやがるね、この寺はこりゃまさしく大師さまですよ」

「偉いよ。おまえにしちゃ大できだ。いかにも真言宗のお寺だが、どうして眼がんがついたかい」

「バカにおしなさんな。だから、さっきもお断わりしておいたんですよ。あっしだっても字ぐれえ読めるんだからね。この上の門の額に、ちゃんとけえてあるんじゃねえですかよ。一真寺、浄円題とね。浄円阿闍梨あじゃりといや、天海寺の天海僧正と、どっちこっちといわれたほどもこの江戸じゃ名の高かった真言宗のお坊さんなんだ。そのお坊さまのけえた額がこうして門にかかっているからにゃ、まさにまさしく真言派のお寺にちげえねえですよ」

「ウフフ。なかなか物知りだね。おまえにしちゃ珍しく博学だが、このお寺はどのくれえの格式だか、それがわかるかい」

「え……?」

「寺格はどのくれえだかといってきいてるんだよ」

「くやしいね」

「あきれたな。知らねえのかい。そういうのがバカの一つ覚えというやつさ。定額寺じょうがくじといってね、お上からお許しがなくっちゃ、むやみと山門にこういう額は上げられねえんだ。相撲すもうの番付にしたら、りっぱな幕の内もまず前頭まえがしら五枚めあたりよ。これからもあることだからね、知恵はもっと細っかくたくわえておかなくちゃ笑われるぜ」

「ちぇッ。ほめたかと思うと、じきにそれだからな。だから、女の子も気を許してつきあわねえんです。しかし、それにしちゃこのお寺、ふところにぐあいがちっと悪いようじゃござんせんかい」

なるほど、見ると、寺格の高い割合には、境内の様子、堂宇の取り敷き、どことはなしに貧しく寂れたところが見えるのです。

「くずれていやがらあ。ね、ほら、鐘楼の石がきにいくつもいくつもあんなでけえ穴があいておりますよ。おまけに、ぺんぺん草がはえやがって、どこか気に入らねえお寺だね。……よッ。青坊主があっちで変なさしずをしておりますぜ!」

声にふり返って見ながめると、本堂の横の庭先で、いかさま年若いひとりの僧が、鳶とび人足らしい三、四人のいなせな男どもにさしずしながら、しきりと矢来杭やらいぐいを結わせているのが目にはいりました。しかも、その結いがきの中には、まぎれもなく六体の地蔵尊が見えるのです。

「ご僧」

静かにうしろへ近づくと、名人は物柔らかく、だが、その目の底になにものも見のがさぬさえた光をたたえて、静かにきき尋ねました。

「不思議なことをしておりますな」

「は……?」

不意を打たれて、いぶかるようにふり向いた若僧の姿をぎろりと見ると、年はまだ三十そこそこでありながら、その手にしている水晶の数珠じゅずには紫の絹ひもが通っているのです。――右門流がずばりと飛びました。

「真言宗の紫数珠は、たしか一寺一院をお持ちのしるしでござりますはず、ご住職でありましょうな」

「恐れ入りました。いかにも愚僧、当寺の住職蓮信れんしんと申す者でござります。あなたさまは?」

「八丁堀の右門にござる」

「おう! そうでござりましたか。ようこそ! では、永代橋のあの一件、お詮議にお越しでござりまするな」

「さよう、この六体はまさしくあちらの分かれ地蔵とはご因縁の女人地蔵とにらみましたが、急にこのような杭垣くいがき設けられるとは、どうした子細でござります?」

「あのようなもったいないお姿にされては、ご寄進のかたがたにも申しわけがござりませぬゆえ、盗み出されぬようにと、こうしてきびしく囲うているのでござります。あはは。いや、まったく、用心に越したことはござりませぬ。興照寺のようなおうちゃく寺では、地蔵尊どころか、いまにご本尊さままでも盗まれまするよ」

「聞き捨てならぬことを申されまするが、では、あちらのお住職はご行状がちと――」

「悪い段ではござりませぬ。いかに修行の足らぬ者でござりましょうとも、あれでは少し度が過ぎましょうわい。あはは、河原者かわらものならば男の良いのがとりえでござりましょうが、み仏に仕える者ではな、かえってじゃまでござりましょうよ」

「と申しますると、何か浮いたうわさでも――」

「うわさどころか、兄弟子あにでしながらこの蓮信も、あれではちと目に余るくらいでござります。同じこのお寺で修行をつづけて、本寺、末寺と分かれた仲でござりますのでな、ことごとにかばいだてもいたしまして、悪いうわさの口端くちはに広まらぬようにと、ずいぶん気をつかってでござりまするが、あれこそまったく女地獄、このごろではどういう素姓の者やら、年上のあばずれ者らしい女とこっそり行き来をつづけて、いいえ、もう近ごろはからだに暇さえあると女を寺に引き入れて淫楽三昧いんらくざんまいでござりますのでな、さすがのてまえも、ほとほとあいそをつかしているくらいでござります。ちょうどいいさいわい、あなたさまからもきびしくお灸きゅうをおすえくださりませ」

「なるほどのう。あちらのお住職とは兄弟弟子でしでござりまするか。それならば、ご心痛なさるのもごもっとも至極、よもや、今のそのお話、うそではござりますまいな」

「もってのほかのこと、不妄語戒ふもうごかい、犯すほどのばち当たりでござりましたら、蓮信、この紫数珠を身につけてはおられませぬ。お疑いならば、あちらへ行ってお調べなさるが早道、今も申したとおり、身に暇ができたとならば、きっと女をこっそり引き入れるか、ないしょに女の隠れ家へ忍んでいくか、よからぬ交わりしているはずでござりますゆえ、じきじきにご詮議なさるとよろしゅうござりまするよ。――いや、いううちに、てまえのからだも少し忙しくなったようでござります。ごめんくださりませ。鳶の衆もな、かきねができたらもうご用済みでござりますゆえ、ゆっくりお説教でもお聞きなさいよ」

数珠つまぐって、静かに会釈しながら立ち去っていったのを見送るともなく見送ったその目に、はしなくも映ったのは、そこの本堂の前の階段口に、麗々と建てられてある次のごとき一札でした。

「紀州、ご本山よりご下向のご番僧説教日割りは、左記のとおり相定め候そうろうにつき、お心得しかるべく候。

壱、参、五、七、四カ日に当山。

弐、四、六、八、四カ日は興照寺。

ただし朝五ツよりのこと」

「あにい!」

読み下すや同時です。ふいっと名人が不思議なことを尋ねました。

「きょうは幾日だっけな」

「へ……?」

「四月の何日かというんだよ」

「はてね。お待ちなさいよ。おついたちの赤のご飯をいただいたのはおとついだから、ええと――ちきしょう、三日なら三日といやいいんだ。まさしく四月の三日ですよ」

「ウフフ。そうかい。道理でな、蓮信上人れんしんしょうにん、忙しくなりだしたとのたまわったよ。おいらも急に忙しくなりやがった。――来な!」

「ど、ど、どこへ行くんですかよ。いやだね、また急に伝六泣かせをお始めですか、三日なら何がどうしたというんですかい」

「決まってらあ。あそこの立て札にもちゃんと断わってあるじゃねえかよ。三日ならばこっちの説教日、こっちが説教日ならば川向こうは暇の日なんだ。蓮信上人、今なんといったのかい。からだに暇さえあれば、興照寺の住持さん、おしろいつけた女仏さまからとんだ極楽の夢を見せてもらっているといったじゃねえか。さらし地蔵のなぞも、そこら辺にしっぽがのぞいているかもしれねえ。だから、その女、張りに行くんだよ」

「ちぇッ。たまらねえことになりやがったね、色和尚いろおしょう、恋の遺恨の鼻欠け地蔵とくりゃおしばやものだ。行きますとも! 行きますとも! しっぽの出てくるところまで行きますよ。からめ手詮議はだんなが得意、いろごと詮議はあっしの得意、坊主がなめりゃ四光とくらあ。――えっへへ。こうなりゃもう気もたってくるが、足もまたはええんだからね。じれってえな。もっと急いで歩きなせえよ」

じつにどうも言いようなく口達者な男です。急がせながら河岸かしに沿って曲がりばなをひょいと見ると、乗せてきての帰りか、だれかを待っているのか、いいぐあいにも目についたのは一艘いっそうの伝馬てんまでした。――もとより見のがすような伝六ではない。

「ちきしょう。おあつらえ向きにできてやがるね。船頭、乗ってやるぜ。遠慮はいらねえ。早く出しなよ」

「冗、冗、冗談じゃねえですよ。一真寺のお説教を聞きに来た日本橋のご隠居さんたちが買いきりの船なんだ。二文三文の安お客を乗せる渡しじゃねえんですよ」

「なんでえ、なんでえ。二文三文の安お客たア、どなたにいうんでえ。腰の十手がわからねえか! お上御用でお乗りあそばすんだ。向こうっ岸までとっとと出しなよ!」

飛び乗って、ギーギーと急がせながらこぎつけたところは、大川を横堀よこぼりへはいった興照寺のちょうどその裏手でした。ちらりと見ると、岸にのぞんだ大きな柳の陰に、だれを乗せてきたのか、だれを待っているのか、こざっぱりとした伝馬てんまが一艘やはりつながれてあって、六十がらみの日にやけた船頭が、ぷかりぷかりとのどかになた豆ギセルから紫の煙を吐いているのです。あがりぎわに何心なくひょいとその船の中をのぞいてみると、いともなまめかしい品がある。大がらのはでな座ぶとんが一枚、そばにはまたさらになまめかしい朱ぬりの箱まくらが置かれてあって、その上に朱羅宇しゅらうが一本、タバコ盆が一個。乗り手の主こそ見えないが、いずれもそれらはひと目にそれと、使用の客の容易ならぬあだ者であることをじゅうぶんに物語っている品々ばかりなのでした。――烱眼けいがんはやぶさのごとき名人が見すごしするはずはないのです。

「ウフフ。献立がちゃんとできていらあ。こっそり裏手から船をつけて、尾のあるきつねが日参りするたア、これこそほんとうにお釈迦しゃかさまでもご存じあるめえよ。ぽうっとなるようなところ見せつけらても、鳴っちゃいけねえぜ」

ぐるりと築地塀ついじべいを回って表山門からはいってみると、門には額がない。まさしく寺格は一真寺よりも下てあるはずなのに、だが、境内の様子、堂宇の取り敷きなぞは、不審なことにも本寺よりずっと裕福そうでした。――いぶかりながら、見とがめられぬように本堂の横から裏へ回って、方丈の間とおぼしきあたりの内庭先へこっそり忍び入ってうかがうと、果然目を射たのは、そこのくつ脱ぎ石の上に脱ぎ捨てられてある一足のなまめかしい女げたでした。しかも、穏やかならぬ気勢が聞こえるのです。甘えるような女の声に交じって、ほそぼそとさとすような若上人の声が障子の中から漏れ伝わりました。それっきりしいんと怪しく静かに、静まり返ったかと思うと、やがてまもなく加持祈祷きとうでもはじめたものか、まことしやかなもみ数珠じゅずの音につづいて、もったいらしげな称名唱和の声が伝わりました。

「ちきしょう、あの手この手を出しやがらあ。くやしいね。とんだ引導を授けていやがるんですよ。はええがいいんだ、飛び込みましょうよ!」

「黙ってろ」

目顔でしかりつつ、息を殺して木立ちの陰にたたずみながらうかがっていると、ぴたり祈祷の声が終わると同時に、ふたたびまたしいんと怪しく静かに静まり返って、ややしばし気にかかる沈黙がつづいたかと思われるや、とつぜん、シュウシュウと帯でも締め直したらしい気勢が聞こえるといっしょに、すうと障子があいて、あたりをはばかるようおしろい焼けの素顔もかえって艶えんな二十六、七の、すばらしいあだめかしい年増としま女です。つづいてあとから現われたのは、それこそ問題の興照寺住職にちがいない。目のさめるようなみずみずしい美男僧でした。――見ながめて、すいと身を現わしながら、歩み近づこうとしたとき、だが、意外なことばをふたりがかわし合いました。

「では、おだいじに。母上にもよろしゅう」

「申しましょう。おまえもたいせつにな」

耳にするや同時です。にたりと苦笑を漏らして名人が、そのままものをもいわず、さっさと足を早めながら山門の表に引っ返していったので、たちまち早雷を鳴らしだしたのは伝六でした。

「な、な、何がどうしたというんですかよ。せっかくねらいをつけただいじなかもを、あの場になってのがすたアどうしたというんです! え! ちょっと? ご返答しだいによっちゃ覚悟があるんだからね。何がいったいどうしたというんですかよ!」

「ウフフフ。とんだ大われえさ」

こらえきれないもののごとくうそうそ笑うと、吐き出すようにいいました。

「いったっておまえは承知しめえ。じかに当たってみるほうが早わかりするだろうから、女を洗ってきてみなよ」

「くやしいね! そんなにそでにするなら、ようがすよ。あとであやまりなさんな!」

ぶりぶりしながら、裏手のあの小舟目ざして姿を消したかと思われたが、ほどなく帰ってくると、いばっていったその伝六が、いかにもきまり悪げに頭をかいているのです。――見迎えながら名人が大きく笑って、ずばりと浴びせました。

「どうだい、あにい。りこうになったろう。きょうだいでござりますといわなかったかい」

「ね……!」

「ねだけじゃわからないよ。いったか、いわなかったか、どっちなんだよ」

「いったんですよ。姉と弟じゃねえ、弟と姉でござりますとね」

「同じじゃねえか。女は水稼業みずかぎょうの者だといわなかったかい」

「いったんですよ」

「それから」

「じわりじわりといじくって気に入らねえね。母上があるというんだ、ふたりを産んだおふくろがね」

「決まってらあ。さっきも、ふたりがそれをはっきりいったじゃねえか。よろしく申しましょう、おまえもたいせつにな、とな。だから、きょうだいだなとすぐににらみをつけたんだ。水稼業は何をしているといったんだよ。おそらく、大っぴらに会われねえ商売だと思うが、違うかい」

「そ、そ、そうなんですよ。深川のついこの川上で、湯女ゆなをしているんだというんだ。だから、血を分けたきょうだいだが、弟の出世の妨げになっちゃと、世間のてまえもあるんでね、なるべく人に隠れて行き来しているうちに――」

「船で加持祈祷を受けにやって来るにも、まくらがなくちゃ来られねえほど、その姉君が重い病気になったといったろう」

「そうなんです、そうなんです。真言秘密の祈祷を受けに、弟上人のからだの暇を見てはこっそり通ったのが、とんでもないうわさの種になったんでござりましょうというんですよ。したがって、だんなの眼も狂い、あっしが少し男を下げたというわけなんだ。早い話がね」

「おいらの眼が狂ったんじゃねえや。詮議の道が一本、行き止まりになっただけよ。ウフフ。知恵の引き出しをあけ替えなくちゃなるめえッ。二の手をたぐるんだ。さらし地蔵の背中に彫ってあった六人の女を洗ってきなよ。おまえは字が読めるといばったはずだ。覚えているだろう。大急ぎで回ってきな!」

「えっへへ。おいでだね。いずれこんなことにもなろうと思って、ふところ日記にちゃんと所書きも名まえも書き止めておいたんだ。回るはいいが、回って洗って何をするんですかい」

「知れたこっちゃねえか。六人の女の身性がわかりゃ、遺恨の筋にも見当がつくんだ。通し駕籠かごを気張ってやらあ。あわてねえで、急いで、ゆっくりいってきなよ」

「お手のものだ。だんなは?」

「寝ているよ」

騒ぐ色も見せないのです。第一の道が行き詰まりになったら第二の道へ、――第二の抜け道がまたぷつりと絶えたら第三の裏道へ、それまではまず英気を養ってというように八丁堀へ帰って寝て待っていたが、どうしたことかその伝六の帰りが長引きました。たそがれが来て、宵よいが来て、夜になって、なやましく四月の夜がふけかかってきたとき、ようやくがたがたと足音までがやかましく帰ってくると、じつに意外でした。思いもよらなかったことを、やにわにまくらもとから浴びせかけたのです。

「バカにしてらあ。六人はね、そろいもそろって大年増おおとしまですよ」

「へえ。年増とね。眼がんがちっと狂ったかな。年増もいろいろあるが、おおよそいくつぐらいだよ。三十五、六か」

「ところが大違い。五十九歳を若頭わかがしらにね、六十一、六十三、六十八、七十、七十三と、しわから顔がのぞいているようなべっぴんばかりですよ」

「ウフフ。あっはは。参ったね。歯の抜けた年増たア、みごとに一本参ったよ。洗ってきたのはそれっきりかい」

「どうつかまつりまして、いかにもくやしかったからね。事のついでにと思って、一真寺のお残り地蔵のほうも、六人ともにかたっぱし施主の身がらを洗ってみたんだがね。やっぱり……」

「しわ入りのべっぴんかい」

「そのとおり。しかも、金はあるんだ。いろけはねえがね、十二人とも福々の隠居ばかりなんですよ」

「…………」

「どうしたんです! 急にふいっと黙っておしまいなすったが、何かお気に入らんですかい」

「ウッフフ。二本めの道も、またもののみごとに止まったかなと思っているんだよ」

「へ……?」

「裏街道うらかいどうも行き止まりになったというのさ。おいらは寝るよ。あっはは。春のひとり寝はいいこころもちだ。くやしかったら、夜食でも食べにいってきなよ」

あっさりいうと、策あってのことか、思い余ってのことか、ふっくらと夜具にうまって夢の国を追いました。

3

あくる朝です。

むろん、日のあがらないうちに伝六がやって来るべきはずなのに、どうしたことか不思議と姿を見せないので、いぶかりながら、床の中であごをなでていると、こんな男というのもあまりない。おそがけにしょんぼりとはいってくると、あのいつもうるさい男が珍しく黙ってへやのすみに小さくすわりながら、やにわにめそめそとやりだしました。

「変な男だね。どうしたんだよ」

「…………」

「ウフフ。おいらのお株を奪って、きょうからはおまえさんがむっつり屋になったのかい。黙りっこなら負けやしねえんだ。五日でも十日でも、あごをなでているぜ」

「だって、くやしいからですよ」

「何がくやしいんだよ」

「うるさくがみがみとやりだしゃ、またおこられるから、あんまりいいたかねえがね、こんなことにでもなっちゃなるめえと思ったればこそ、お気をつけなさいよ、出かけて男の上がるときもあるかわりにゃ、でしゃばって男の下がるときもあるんだからと、あんなに口をすっぱくしていったのに、のこのことお出ましになったんで、手もなく八方ふさがりになっちまったんだ。いやがらせはいいたくねえがね、あっしゃくやしいんですよ。だから、ちくしょう、ひとりで目鼻をつけてやろうと、けさ起きぬけにお番所へ出かけていったら――」

「何がどうしたというんだよ」

「人ごろしがあったっていうんですよ」

「ウフフ。つがもねえ。八百八町は広いんだ。ねこの心中もありゃ、人も殺されるよ。それで、おまえさんは悲しくなって、めそめそとやりだしたというのかい」

「バカにおしなさんな。人が殺されて悲しいんじゃねえんですよ。こっちゃ鼻欠け地蔵の目鼻もつかなくてくさくさしているのに、お番所のやつら、てがらにするにゃはでな人ごろしが降ってわいたというんで、わいわいと景気をつけていたからね。それがうらめしくなって、気がめいったんですよ」

「気の小せえやつだな。日の照るところもありゃ、雨の降るところもあるんだ。殺されたのはいってえ何人だよ」

「四人ですよ」

「身性たまは?」

「五分月代さかやきばかりですよ」

「へえ。浪人者かい。じゃ、みんなばっさりやられているんだな」

「いいえ、それがちっとおかしいんだ。ふたりは刀傷だが、あとのふたりは血を一筋も出さずに伸びているというんですよ」

「場所は?」

「それもちっとしゃくにさわるんだ。きのう矢来地蔵をこしれえていたあの一真寺の――」

「なにッ。もういっぺんいってみろッ」

「なんべんでもいいますよ。あの一真寺の裏の松平越前様のお屋敷のへいぎわにころがっているというんですよ」

「駕籠だッ」

がばとはね起きると、早いのです。

「飛ばせろッ。飛ばせろッ」

伝六が鳴るひまも、驚くひまもない。小気味のいいほどもりりしい声で急がせながら、まもなく乗りつけたところは、話のその一真寺の裏手でした。

場所は一真寺の裏門から始まった一本道をずっとまっすぐ右に来て、先は本港町へ通ずる越前家お下屋敷との間の細い路上なのです。――お番所からはまだだれも出馬しないとみえて、自身番の小者たちにしかられながら、物見高い群衆が押しつ押されつ、わいわいとうち騒いでいるさいちゅうでした。

押し分けながら近づいていってみると、なるほど四つの浪人者の死骸しがいが、その細い道の三町ほどの間に、点々として倒れているのです。しかも、不審なのは倒れている四人のその位置なのでした。

一真寺の裏門から一町ほど離れたところにひとり。

――みごとな一刀切りの前傷うけて、頭をこちらにしながら、道なりに長々とあおむけにのけぞっているのでした。腰のものは抜き合わせた様子もないのです。

そこから一町ほどこちらに離れてふたり。

――ひとりはあおむけに、ひとりは伏して、道へ横に倒れながら、この二つが伝六のいった不審な死に方の死骸であるとみえて、いかさまふたりとも血のり一滴見せずに倒れているのでした。しかし、奇怪なことには、そのむくろの近くに、酒だるが一つころがっているのです。

そこからさらに一町離れてひとり。

――一真寺の近くの最初のひとりと同様、みごとな一刀切りの前傷うけて、不思議なことにこれは頭をまんなかに倒れているふたりのほうに向けながら、同じく道なりに長々とうっ伏しているのでした。腰の物もやはり抜き合わせた様子もないのです。

「ね……!」

「…………」

「不思議じゃねえですかい。いいえ、くやしかねえですかい。よりによって、一真寺の近くにこんな変な人切り沙汰さたが起きているんだ。しかも、まんなかのふたりはだれが殺したか、どうして死んだかもわからねえ死に方をしているんだからね。おまけに、両側のふたりもおたげえ頭を向き合わせて死んでいるのが気に入らねえんですよ。きさまはこっちへ向いて死ね、おれもそっちへ向いて死のうと、相談してばっさりやられたわけでもあるめえからね。三町も離れているくせに、仲よく向き合って切られているのがおもしろくねえんですよ。え! ちょいと!」

「…………」

「じれってえね。何がうれしいんですかよ。黙ってにやにやとあごをなでていらっしゃるが、だんなにゃこの死に方がお気に召しているんですかい」

いろいろともうやかましく始めたのを相手にもせず、黙々とたたずみながら、死骸から死骸へ、道から道へ、倒れているその位置とその道筋をしきりと見ながめ、見返していましたが、そのときはからずも目についたのは、一真寺の反対側の本港町の曲がりかどにある一軒の酒屋でした。寺の裏門からずっと出て、死骸を越えて、一本道をまっすぐたどっていったその曲がりかどに、杉すぎの葉束の酒屋のしるしが、無言のなぞを物語り顔につるされてあるのです。

「ウフフ。におってきたな」

さわやかに微笑して、疑問の死を遂げているまんなかのふたりの死骸に近づくと、静かに名人はまず懐中へ手を入れました。

同時にさわったのは金包み!

一方の懐中から切りもち包みが一個。

あとの懐中からも同じく一個。

双方合わせると五十両のおろそかでない大金が、がぜん出てきたのです。――しかも、その包み紙には、ぷーんと強い線香のにおいがある。

「ほんとうににおってきやがった。酒だるを見せてもらおうかね」

さかさにかしげて、何をするかと思われたのに、ぽつりと一滴受けたところは不思議にも親指のつめの上でした。――じりっとたまったかと見るまに、ぱっとそのしずくが散りひろがりました。

せつなです。

「毒だ。まさしく、毒薬を仕込んだ酒だよ」

「はてね、気味が悪いようだが、そんなことで毒酒の見分けがつくんですかい」

「ついたからこそ、毒が仕込んであるといったじゃねえかよ。どうまちがっておまえもお将軍さまのお毒味役に出世しねえともかぎらねえんだからね、よく覚えておくといいよ。つめにたまって散りもせず、かわきもしない酒なら毒のない証拠、今のようにしずくをはじいてしまったら、すなわち毒を仕込んである証拠と、昔から相場が決まってるんだ。――おきのどくだが、眼がんがついたぜ」

「え! フフ、ついたんですかい! ちくしょうめッ。ぞうっと背中が寒くなるほどうれしくなりやがったね。どっちですかい、鼻欠け地蔵のほうですかい、それとも、こっちの死骸しがいの眼ですかい」

「両方よ」

「ちぇッ。たまらねえことになりゃがったね。そもそもいってえ、四人を、四人を、この四人を殺した下手人はどやつですかい」

「すなわち、この四人よ」

「へ……?」

「ひと口にいったら、この四人がこの四人の下手人だというんだよ。身から出たさびさ。――いいかい、よう聞きな」

莞爾かんじとして会心の笑えみを見せると、さわやかにいったことでした。

「坊主があってな」

「へえへえ。なるほど」

「慈悲忍辱にんにくの衣をつけながら、こやつがあんまり了見よろしからざる坊さんなんだ」

「なるほど、なるほど」

「だから、なんの遺恨か知らねえが、ともかくも遺恨があって、あるお寺の分かれ地蔵にけちをつけようと、四人の浪人者に五十両やる約束でそれを請け負わしたのよ」

「いかさまね。それから」

「まんまと六体のお地蔵さまにけちをつけてさらしものにしたからね、浪人のひとりがみんなに代わって、約束の五十両を了見よろしからざるその坊主のところへもらいにいったんだ。しかし、分けまえは人数の多いより少ないほうがよけい取れるに決まっているんだからな、四人より三人で分けようと、金を受け取りにいったやつのけえりを待ちうけておって、まずひとり、ばっさり仲間をばらしたのよ。その殺されたのがすなわちあれさ。あの一真寺寄りのあの死骸しげえだよ」

「へへえね。まるでその場に居合わせたようなことをおっしゃいますが、そんなことがひと目でわかりますかい」

「まだあるんだから黙ってろよ。ところでだ、三人で五十両手にしてはみたが、仲間はひとりでも減るほど分けまえは多くなるんだからな。三人のうちのふたりがしめし合わせて、ひとりを酒買いにやったってのよ。それとも気づかず、一升ぶらさげて帰ってきたところを、ばっさり同じ一刀切りでばらされたのが、酒屋のほうからこっちを向いてのめっているあの浪人者さ」

「ほんとうですかい」

「知恵蔵が違うんだ、知恵蔵のできぐあいがな。そこでだよ、まずこれでしめしめ、五十両は二つ分け、二十五両ずつまんまとふところにしまっておいて、いっぺえ祝い酒をやろうかいと、ところもあろうに道のまんなかで飲みだしたその酒が、あにはからんや毒酒だったのよ。――わかるかい」

「はあてね」

「しようがねえな。酒を買いにやらされたそのやっこさんが、じつは容易ならぬくせ者だったのさ。五十両ひとりでせしめたら、こんなうめえ話はあるめえ、酒を買いによこしたのをさいわい、毒を仕込んでふたりを盛り殺してやろうというんでね、かねて用意しておったのか、それともどこかそこらの町医者からくすねてきたのか、死人に口なしで毒の出どころはわからねえが、いずれにしても使いにいったやつがこっそり一服仕込んで、なにくわぬ顔をしながら帰ってきたところを、毒殺してやろうとねらっていたふたりにかえって先手を打たれて、ひと足先にばっさりやられる、やっておいて毒が仕込んであるとも知らずに飲んだればこそ、因果はめぐる小車さ。このとおり、このふたりが一滴の血も見せず、また命をとられてしまったんだ。ふところから切りもち包みが一つずつ出てきたのがなにより証拠。その酒だるから毒酒の出たのも動かぬ証拠。それでもなおがてんがいかずば、そこのふたりの刀をよく調べてみろよ。あっちとこっちのふたりを、それぞれ一刀切りにしたときの血くもりが、どれかの刀身に見えるはずだよ」

「はてね、――よッ。ありますよ、ありますよ。この右のやつの刀に、まさしく血のりの曇りがありますよ」

「ありゃあもう文句はあるめえ。すなわち、身から出たさび、欲がさせたしわざの果てさ。残るところは、どこのお寺の坊主がこの四人を欲で買ったたか、五十両包みの出どころ詮議だけだよ」

「ね……! まるで神さまみてえだね。頼んだその坊主はだれですかい」

「すなわち一真寺! きのうのあの紫数珠の蓮信坊だよ」

「つがもねえ。どこにそんな証拠があるんですかよ」

「五十両の包み紙から、ぷーんと強く線香のにおいが散っているじゃねえかよ。しかも、まっさきにばらされたあっちの死骸が、いま一真寺から出てきたところでござりますといわぬばかりに、裏門から一本道をこっちへ向いて道なりに倒れているじゃねえか。きのう、なんのかのとおいらに末寺の兄弟弟子でしのあの美男上人の讒訴ざんそをしたのも、今になって思い直してみりゃ気に食わねえんだ。かばうかばうといいながら、その口で弟弟子の根も葉もない悪口を訴えがましくいうやつがあるかよ。ホシはあれだ。来な!」

「ちげえねえ! べらぼうめ、どうするか覚えてろ」

さっと駆けだした伝六を露払いに、あとからゆうぜんとして訪れたところはその一真寺です。

見ると、ことの雲行きを探ろうためにか、それともそしらぬ顔を造ろうとのためにか、そこの本堂横の広庭をぶらぶらさまよっていたのは、だれでもないあの蓮信でした。

「ご坊ッ」

つかつかと近よりざまに、莞爾かんじとしながらうち笑うと、ずばり浴びせかけたものです。

「むっつり右門の生地を見せてやらあ。ちっと伝法でいくぜ。ネタは悉皆しっかいあがったんだ。すっぱりどろを吐きなよ!」

「な、な、なんでござります! 不意に何を仰せでござります」

「しらをきるねえ! そんな見えすいた仏顔は古手だよ。ちゃんとその目にもけえてあるじゃねえか。五十両であの四人を買いましたと、あっさり白状すりゃいいんだ」

「…………」

ぎょっとなりながら、争われぬ狼狽ろうばいの色を見せて、さしうつむいたその顔へ、ずばりとさらにすばらしい名啖呵たんかが落ちかかりました。

「目があるんだ、目がな。おいらの目も安物じゃねえが、み仏のおん目は、三世十方お見通しだぜ。手数をかけりゃ、啖呵にもきっすいの江戸油をかけなきゃならねえんだ。早く恐れ入りなよ」

「…………」

「吐かねえな。かがしてやらあ。この五十両の線香のにおいは、どこのにおいかよ」

「…………」

「ちぇッ、まだ吐かねえのか。じりじりして疳かんがたかぶってくらあ。じゃ、ぴしぴしとこちらからいってやろうがね。事の起こりゃ、おそらくみんなご坊のあさましいねたみ心にちげえあるめえ。なによりの証拠は、末寺の興照寺と本寺のこの一真寺との景気の違いだ。定額のお許しもねえ興照寺はあのとおりのご繁盛、それにひきかえ、ご本寺はあそこの鐘楼の石がきでもわかるとおり、ちっとご身代が左前のご様子だからな。それゆえに、あの分かれ地蔵を何かよからぬ了見からさらしものにしたとにらんだが、ちがうのかい」

「…………」

「じれってえな。おいらが責めたてると思や腹もたつかしらねえが、啖呵は借りもの、責め手もみ仏のご名代、弘法さまに成り代わって責めているんだ。袈裟けさのご光、法衣ころものてまえに対しても申しわけがあるめえ。いいや、仏心をお持ちなら、もっとすなおにざんげができるはずだよ。理にはずれたことアいわねえつもりだ。どうでえ、まだじらすのかい」

「なるほど、いや、恐れ入りました。このうえ隠しだていたしましたら、罪のうえにも罪を重ねる道理、仏罰のほどもそら恐ろしゅうござりますゆえ、白状いたしまするでござります……」

人を見て法を説いた最後の一語が、ついに鋭く蓮信の心をえぐったとみえて、さっと面を青ざめながらうなだれていた顔をさらにうなだれると、細々とした声でようやくすべてを物語りました。

「何もかもまったくおにらみどおり、あの四人を五十両で抱き込み、いうももったいないあんな所業をさせたのは、みんなこの蓮信れんしんでござります。それもこれも、もとはといえば、今おっしゃったおことばどおり、末寺の栄えをそねんでのこと、もとよりもうお調べがおつきでござりましょうが、あちらは新寺にいでらでありながら、住職のあの弟弟子に人徳がござりますのか、日に日に寺運が栄えてまいりましたのにひきかえ、当寺は愚僧の代となりましてから、このとおりのさびれかた、――それというのも、あの六地蔵菩薩ぼさつのお施主たちがたいへんもなくあちらにお力添えくださるからのことでござります。もともと新寺の開運地蔵としてお祭り申しあげるよう、特にあの六体を分けてやったものでござりますゆえ、そのお施主たちがわがことのように、あちらの寺へお力添えなさるはあたりまえでもござりまするし、別してねたむところなぞないはずでござりまするが、これこそほんとうに天魔に魅入られたというのに相違ござりませぬ。新寺の栄えるは、ひっきょう、あの分かれお地蔵六体の寄進者たちがあちらの檀家だんかとなってついていったからじゃ、もったいないが、お地蔵さまをおけがし申したら、六人の施主たちも憤るにちがいない。いいえ、盗み出されたり、あんなところへさらしものにされるというのも、みんな住持の不始末からじゃ、不徳からじゃ、だいじに祭ってくれぬゆえ、人目に恥をさらすようなことにもなるのじゃとお怒りなさるは必定、さすればきっとあちらを見捨てて、もとどおりこの本寺の檀家だんかになってくださるだろうと、ついあさはかなことを考えたのが、こんな人騒がせのもとになったのでござります。仏弟子にもあるまじき不浄のねたみ心、まことになんとも面目しだいもござりませぬ……」

「なるほど、そうでしたかい。よく申しました。ちっと心が濁りすぎましたのう」

「は……お会わせする顔もござりませぬ。かくならば覚悟いたしましてござります。わたくしは、このなさけない蓮信れんしんは、どうしたら、どう身の始末つけたらよいでありましょう」

「罪を犯したとお思いか!」

「思う段ではござりませぬ。お地蔵さまをおけがし申した罪、そねんだ罪、あの四人をそそのかした罪。――みな罪ばかりでござります。どう……どう身の始末つけたらよろしゅうござりましょう」

「お行きなされい! 寺社奉行さまが、さばきのむちと情とを持って、お待ちかねでござろうわ!」

「なるほど、わかりました……ようわかりました……ならば、自訴しに参りまするでござります……」

哀々とした声でした。悲しげに、寂しげにうなだれ沈んで、とぼとぼと表山門から蓮信が出ていこうとしたのを見ながめると、名人右門、やはりまた情けのむちを持ったあっぱれ男です。

「その乱れた姿で表山門はくぐりにくかろう。いいや、人目にかからば悲しかろう。裏門からお行きなされい。何もかもこの右門胸にたたんで、こっそりお見送り申しましょうわい」

「わかりました。参りまするでござります……」

とぼとぼと力なく足を運んで、卒塔婆そとば、新墓にいばか立ち並ぶ裏墓地を通り抜けながら、罪の蓮信坊は寺社奉行所目ざしつつ、悲しげに裏門をくぐりました。

見送りながら、右門主従も静かに出ていったその出会いがしら!

「おじさん! 八丁堀のおじさん! 珍念でござります!」

くるくると愛らしげに目を丸めながら、ころころと向こうから飛んできたのは、あの豆お小僧珍念です。

「おう! 来ましたのう! 手にささげているはなんじゃ」

「お約束のおはぎでござります。あの、あの、今度おじさんにお目にかかりましたら、お地蔵さまともご相談しておもてなしいたしますと約束いたしましたゆえ、こちらにお越しとききまして、このとおり急いで川向こうから持って参じましてござります」

「ウフフ。賢いことでありますのう。なるほど、そんなお約束をいたしましたな。では、遠慮のういただきましょうよ」

「あい。どうぞたくさん……」

くるくると愛らしく丸めながらふり仰いだ珍念の黒い小さいひとみには、うれしさ余ってか、清浄な、純真な涙の露が見えました。

底本 / Source edition

底本:「右門捕物帖(三)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:福地博文
2000年6月5日公開
2005年9月23日修正
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TEI
/works/000571_000111/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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佐々木 味津三「右門捕物帖──29 開運女人地蔵」(新字新仮名)、底本『右門捕物帖(三)』春陽文庫、春陽堂書店、1982年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 000571_000111, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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