　あひるさんのうちの　きんじよに、ひつじのやうふくやさんがありました。あひるさんは、がくかうからかへると、まいにち、ひつじさんのおみせへいって、ひつじさんが、ミシンでやうふくをぬふのを、みてゐました。
　ひつじさんは、あひるさんが、まいにちきてうるさいので、おしまひには、あひるさんが、はなしかけても、へんじをしなくなりました。
「をぢさん、このきれ、なんていふの。」ときいても、
「をぢさん、ぬひめがまがってるよ。」といっても、ひつじさんは、だまってミシンをかけてゐました。
　あひるさんは、はらがたってたまりません。みちばたから、こいしをひろってきて、ミシンの上にそっとおきました。
　ひつじさんは、あひるさんの方もみないで、そのこいしを、ぽんと、そとへすてました。
　あひるさんはすぐ、木のはを、ひろってきて、ぬってゐるやうふくのうへへ、ばらまきました。ひつじさんはだまって、やうふくブラッシで、はらひおとしました。
　あひるさんは、こんどは、木のきれをもってきて、ひつじさんのおひげや、せなかや、あしをつつきはじめました。
　すると、みるみるうちに、ひつじさんのかほのいろがかはって、
「いたづらあひるめ、もうゆるさないぞ。」
といふと、ぬひかけのやうふくをはふりだして、あひるさんをおっかけてきました。
　あひるさんは、どんにげました。そしてやっと、おうちへ、かけこみました。
「おかあさん、ぼく、いま、へんなひつじさんにおっかけられたの。そこで、つかまりさうになったの。」とあひるさんは、いきをきらしていひました。
「さうかい、よくきをつけないと、わるいやつがゐるから。」とおかあさんは、あたまをなでてくださいましたが、あひるさんのむねは、いつまでもどき〱してゐて、
「これおやつだからおあがり。」と、くださったおくわしも、のどにとほりませんでした。
　やうふくやのひつじさんは、やっぱり、まいにち、ミシンをかけてゐましたが、もう、あひるさんはこなくなりました。しかし「やれ、やれ、せい〱した。」とおもったのは二三にちのあひだで、なんだかやっぱり、あひるさんがこないと、さびしくなってきました。
　あひるさんは、がくかうのゆきかへりに、ひつじさんのおうちのまへをとほりますが、ちひさくなって、わきをむいて、こそ〱とほりますので、よびとめることもできません。
「あひるさんや、あひるさんや。」と、おほきなこゑでよびますと、あひるさんは、カバンをかかへて、どん〱にげていってしまひました。
　ひつじさんは、がっかりしましたが、そのうちにとてもきれいなやうふくを一まいぬって、あひるさんのうちへとどけて、またあそびにくるやうに、おかあさんにたのみました。そして、
「そんなに、ミシンがすきなら、おでしにして、あげよう。」といひました。
　それから、あひるさんは、ひつじさんのおでしになって、じやうずなやうふくやさんになりました。