ある新劇団の稽古場。
正面に黒の無地幕。部屋の中央に一脚のベンチ。ほかの家具類は悉く片隅に寄せてある。そこには、椅子卓子などの外に、若干の小道具――乳母車、バケツ、洋刀、パラソル、三脚、毛布などが纏めて置いてある。右手に柱時計。
数名の男女俳優（又は研究生）が、思ひ思ひの姿勢で雑談を交してゐる。
男優Ｂ　　本を読むと、どんなもんでもみんな台詞にしたくなるね。
女優Ｂ′　　役者になりたてはそんなもんよ。
男優Ｂ　　ぢや、君もおつつけ、さうなる組だ。
男優Ｃ　　僕は、一昨日の晩、あれ見に行つたよ。
女優Ｃ′　　十人座でせう。どこか新鮮なところがありやしない。
男優Ｂ　　新鮮でも未熟な果物は腹をこはす。
女優Ｃ′　　あたしは、新劇を見ると頭痛がするの。
男優Ｂ　　さういふ症状もある。
女優Ｂ′　　（台詞の調子で）……「あたし、誰かと騒ぎたいな。新しい着物を着たせゐかも知れないわ。ねえ、なんかして遊びませうよ。あんた、村へ行かうておつしやつたわね。行きませうよ。行きたいわ、あたし……舟へ乗りませうね。草の上でお弁当をたべたり、森の中を歩いたり……。今夜は月がいゝかしら……。あら、変ね、あたしのあげた指環、はめてらつしやらないの……」
男優Ｄ　　「なくしちやつた」
女優Ｂ′　　「だから、あたしが拾つたの」
男優Ｃ　　演し物はまあ、あれでいゝさ。たゞこつちで練習用に使つてるとも知らずに、のめのめと舞台へ掛けたもんだから、可哀さうに、あらが丸見えだ。
女優Ｄ′　　稽古不足なのね。
男優Ｂ　　あの稽古ならいくらやつてもおんなじさ。
男優Ｃ　　芝居をしてる本人たち、あれで面白いのかしら……。
男優Ｄ　　子供は玩具をやらなくつても遊ぶもんだ。
女優Ｂ′　　（また台詞の口調で）……「おゝ、神様、なぜあなたは、真実そのものに譃をおつかせになるのです……」
女優Ｃ′　　……「どうぞ、そんなお話はおやめ下さいまし。それよりも、お天気のお話を、花のお話を、あなた様のお髪やわたくしの帽子の話をいたしませう……」
男優Ｅ　　（次の部屋からはひつて来て）「さうだ、なんでもお前の好きなものの話をしよう。わしが生命よりもいとしく思ふその清々しい微笑を消さずに、お前の唇のうへを通るものなら、それこそ、どんな話でも聴かう……」
女優Ｄ′　　まづいなあ。
この時、別の入口から、男優Ａがはひつて来る。一同起ち上つて会釈する。
男優Ａ　　今日の科目は即興劇……これで、今学期は終りだから、少しむつかしい問題を出す。今迄やつた即興劇は、大体筋書をきめ、役もいちいち振り当ててやつたんだが、今日は、筋書もないし役割もその場で自分が作るやうにするんだ。つまり、めいめいが勝手に「ある人物」になる。そしてお互ひに協力して筋を仕組んで行く。これは一定の目標がないだけに、各人の想像力を存分に発揮できるが、また一方、脈絡を失ふ恐れがある。そこは、できるだけ当意即妙の精神を働かして、ひと通り辻褄を合せるやうに注意しなけれやならん。
　便宜上、二三、規定を作つておく。
一、一人の人物は少くとも五分間舞台にあるべきこと。特別の場合を除き、十分間以上舞台に止るべからず。
二、ある人物が登場する時機は、それぞれ自由なるも、故意に舞台を混ぜ返すやうな出方は慎むべきこと。
三、必要に応じ、次の人物の登場を促すことあるべし。その合図として、余は咳払ひをなす。
四、時間は凡そ三十分。幕開き幕切れは、いつもの通り、自分が手を叩く。新井君がまだ来てないね。ぢや始める。登場の順は、男がＡＢＣ順、女はその逆順……。
男優Ｂ　　ちよつと、その時間の範囲内なら二度出てもかまひませんか。
男優Ａ　　むろんよろしい。その代り責任が大きくなるよ。（一同私語す）静かに……。（手を叩く）
みんなが尻ごみしてゐるので、男優Ａ自ら進み出る。
男優Ａ　　（腕時計を見ながら）遅いなあ。何を愚図々々してるんだ。相談があるといふからわざわざ出かけて来たんだ。おれの方から呼び出したんぢやない。日曜日午後二時、日比谷公園の池の縁のベンチなんてまるで二十年前の小説ぢやないか。（腰をおろす）
女優Ｄ′　　（乳母車を押して登場）あゝ、暑い暑い。坊や、まだねんねしないの。母さんはもう草臥れちやつたよ。どら、この辺でちよつと休ましておくれ。そうら、噴水が見えるでせう。
男優Ａ　　まあ、こゝへお掛けなさい。お丈夫さうなお子さんですね。
女優Ｄ′　　いゝえ、もう、弱虫で困りますの。毎日外の空気を吸はせたらつてお医者様がおつしやいますんですけれど、此処まで参りますのに、あたくしが一苦労なんですの。此処まで参りませんと、空気らしい空気がございませんし……。
男優Ａ　　なるほど。お宅は、そんなに御遠方ぢやないんでせう。
女優Ｄ′　　桜田本郷町でございます。
男優Ａ　　僕の友人が一人桜田本郷町にゐるんですが、まだ訪ねたことはありません。なんでも、やはり、これくらゐの第二世がゐる筈です。さう云へば……失礼ですが……お宅の御主人は……。
女優Ｄ′　　あの、商売の方でございますか。
男優Ａ　　えゝ。
女優Ｄ′　　あの……西洋家具をやつてをりますんです。
男優Ａ　　菱刈さんとおつしやるんでせう。
女優Ｄ′　　菱刈……信行と申します。あら、どうして、それを御存じでらつしやいますの。
男優Ａ　　不思議でせう。さつき僕の友人が桜田本郷町にゐると云つたのは、その菱刈君のことですよ。
女優Ｄ′　　でも、それがどうして……。
男優Ａ　　この坊つちやんを一目見ればわかります。
女優Ｄ′　　これで、女の子なんでございます。
男優Ａ　　女の子は男親に似るもんです。僕はもう五六年菱刈君と会ふ機会がないんですが、相変らず元気ですか。
女優Ｄ′　　はあ、お蔭さまで……相変らず瘠せてはをりますけれど……。
男優Ａ　　そんなに瘠せてましたかねえ。僕より瘠せてますか。丈は高い方でしたね。
女優Ｄ′　　普段こゞんでをりますけれど、ちやんと計れば五尺五寸たつぷりございます。
男優Ａ　　さうでせう。あゝ、僕は飯沼です。名前は多分御存じだと思ひますが……。
女優Ｄ′　　あゝ、あの飯沼さんでいらつしやいますか。そんならもう、絶えず主人から、……あら、どうしませう……あたくし、こんな扮をして……。
男優Ａ　　結構です。菱刈君が美しい細君を貰はれたといふ話も聞いてはゐたんですが、いや、こつちこそ。どうも失礼しました。
女優Ｄ′　　こんなこと申上げていゝかどうか存じませんけれど、なにしろ、かういふ時節柄でございませう。あれこれ工面をしなけれやならないと見えて、主人は昨晩も大阪の方へ参りましたんです。全く、商売なんて心細いもんでございますわね。
男優Ａ　　心細いのは御同様です。菱刈君は、しかし、何をやらしても大丈夫な男ですよ。僕は、さう思つてます。機を見る明と云ひますか、昔から先生は、眼のつけどころが違つてましたね。
女優Ｄ′　　おやおや、あの人が自分で少し、さういふ自信でも持つててくれるといゝんですわ。あら、坊や、何をお口へいれたの……。いやしいことしちや駄目ですよ。さ、そろそろお家へ帰りませう。狭いところでございますけれど、ちつとお遊びにいらしつて下さいませ。
男優Ａ　　そのうちに是非……あ、奥さん、名刺をあげておきませう。今ゐるところです。はい、嬢ちやん、あんた持つてらつしやい。食べちやいけませんよ。
女優Ｄ′会釈して去らうとするところへ、男優Ｂが登場。
男優Ｂ　　（女優に向ひ）なんだ、お前そんなところにゐたのか。（男優Ａに）おや、君は飯沼君ぢやないか。
女優Ｄ′　　それがね、あなた……。
男優Ａ　　僕が此処で人を待つてると、一人の婦人が、可愛い赤ん坊を乳母車に乗せて、偶然前を通りかゝつたんだ。君の細君だと知つて僕は全く驚いたよ。
男優Ｂ　　さうだらう。偶然なら偶然としておかう。君はこの女に何か用事があるのかね。
男優Ａ　　君の細君と知つたから、話をしたまでだ。それが悪いとでも云ふのかね？
男優Ｂ　　馬鹿野郎！　飽くまで人を侮辱する気だな。こいつの顔におれの女房だつていふ貼札でもしてあつたか。やい、貴様たちは何時からこんなところで会つてるんだ。
女優Ｄ′　　随分ひどいことおつしやるのね、あなた。今日はじめてお目にかゝつたんぢやありませんか。
男優Ｂ　　お前は黙つて家へ帰れ。
女優Ｄ′　　いゝえ、帰りません。飯沼さんが御迷惑ぢやありませんか。
男優Ｂ　　それみろ、もうこの男を庇ふ気でゐやがる。よしよし、おれが飛行機で帰つたのは、これこそ天の配剤だ。お前にはもう用はない。早く帰つて、からだの始末を考へろ。
女優Ｄ′　　そんなこと云つて、後で後悔しないでせうね。
男優Ｂ　　後悔したらしたで、またそん時の話だ。
女優Ｄ′　　（立ち去りながら）知りませんよ。あたしは、今日限り家を出て行きますから。ねえ、坊や……これから母さんと二人で、もつともつと楽しく暮しませうね。
男優Ａ　　（後を見送つた後）さあ、男同志の話だ。冷静に解決をつけようぢやないか。文句があるなら云つてみろ。
男優Ｂ　　貴様は、おれの女房と知つて、それをこんなことにしてしまつたんだな。
男優Ａ　　想像に任せる。
男優Ｂ　　此処以外の場所で会つたことがあるか。
男優Ａ　　それも推察に任せる。
男優Ｂ　　卑怯だぞ。はつきり返事をしろ。
男優Ａ　　ぢや、こつちから訊ねるがね。君は、どういふ証拠をつかまへて、そんな詰問をするんだね？
男優Ｂ　　証拠がなけれやいかんと云ふのか。そんなら、そつちこそ、さうでないといふ証拠をみせろ。
男優Ａ　　お安い御用だ。一番たしかな証拠と云へばなんだ？　これこれを出せと云つてみてくれ。清浄潔白な証拠といふものが、なにかある筈だ。さあ、遠慮はいらん。なんなりと註文してくれ。
男優Ｂ　　最近、ほかの女から来た手紙でも持つてるか。
男優Ａ　　生憎持つてる。持つてるが、そんなものが証拠になるかね。同時に幾人もの女を持つてるといふ例もあるしね。
男優Ｂ　　女房の名前を云つてみろ。
男優Ａ　　僕のかね？
男優Ｂ　　いゝや、おれのさ。
男優Ａ　　そいつを訊いとくのを忘れた。僕は、あんまり、女の名前なんかに興味はないんでね。貞子さん……それとも、操さん……違ふね。郁子さん、すま子さん、芳江さん、ゑみ子さん、加代子さん、とし子さん、れい子さん。……どうだね、まだかね、弥生さん、君子さん、常子さん……。
男優Ｂ　　それだ。
男優Ａ　　これか、常子さん……。
男優Ｂ　　わざと知らん振りなんかするな。
男優Ａ　　常子さんか、覚えとかう。
男優Ｂ　　おい、飯沼、頼むからほんとのことを云つてくれ。
男優Ａ　　おれの云ふことがほんたうかどうか、誰がそれを判断するんだい。
男優Ｂ　　おれが判断する。
男優Ａ　　その頭で判断はむつかしからう。まあ、今夜ゆつくり考へてからにしろ。おれは逃げも隠れもしない。おれの今ゐる家は君の細君が知つてるよ。
男優Ｂ　　何がなんだかわからん。おれは、急用ができて、今大阪から帰つて来たんだが、さういふ時、家に子供がゐないと、がつかりするんだ。すぐに顔を見ないと、起つても坐つてもゐられない。日比谷と聞いて飛んで来た。すると、女房の奴が、こんなところで……。
男優Ａ　　男と媾曳の最中……。
男優Ｂ　　黙れ。おれに何をする勇気もないと思つてるんだな。
この時、女優Ｃ′が登場し、そつと二人の後ろに廻り、男優Ｂの頭を抱くやうにして、両手で眼かくしをする。
男優Ｂ　　（虚をつかれ）だあれ？
男優Ａ　　ぢや、僕はこれで失敬しよう。（起ち上る）
女優Ｃ′　　（驚いて）いやな人！　そつちにゐたの。後ろ向きだつたから間違へたのよ。そんなに怒らないだつていゝぢやないの。随分待つた？
男優Ａ　　なに？　僕が君を待つてたつて云ふのかい。冗談云つちやいけないよ。君は一体、なんだい。女には違ひないが、何をする女だい？
女優Ｃ′　　あら、なにをする女は御挨拶ね。ぢや、人違ひかしら……？　あたし、この頃、どうかしてるのよ。（男優Ｂに向ひ）あなた、あたしを待つててくれたんでせう。
男優Ｂ　　うん？　あゝ、さうとも……まあ、掛け給へ。誰かと思つたら、君か。さつきから、どうも君ぢやないかと思つてたんだ。久し振りだね。手紙ついた？
女優Ｃ′　　なに云つてるの。昨日会つたばかりで、久し振りだとか、手紙ついたかとか、いやだわ。あたし、たうとう、あの家出ちやつたの。
男優Ｂ　　あゝ、さう……出ちやつたの。それやよかつた。
女優Ｃ′　　よかないわよ。今日から浪人よ。どうかして頂戴よ。
男優Ａ、その辺を歩きまはつてゐたが、やがて
男優Ａ　　ぢや。菱刈、また会はう。失敬。
男優Ｂ　　（何事もなかつたやうに）やあ、失敬。
女優Ｃ′　　やあ、失敬、お気の毒さま。
男優Ｂ　　（Ａの立ち去るのを見送つた後）こゝもなかなか暑いね。
女優Ｃ′　　夏だわね。冬と夏とどつちがいゝかしら……。
男優Ｂ　　君は……？
女優Ｃ′　　どうしたの？
男優Ｂ　　僕、会つたことあるかしら？
女優Ｃ′　　ないわよ。
男優Ｂ　　ないね。
女優Ｃ′　　すると、どういふことになるの。
男優Ｂ　　僕は、少し疲れてるんだ。
女優Ｃ′　　あたしも疲れてるわ。
男優Ｂ　　真似をするのはよし給へ。
女優Ｃ′　　帰つて寝ようつと……。
男優Ｂ　　誰とね。
女優Ｃ′　　余計なお世話よ。その台詞、なんかにあつたわよ。
男優Ｂ　　（起ち上り）あゝ、草臥れた……。
伸びをしながら、男優Ｂ退場。
男優Ｃ、三脚を持つて登場。やがて、画家が写生をする恰好で、切りに右手を動かしはじめる。
女優Ｃ′は、はじめなんのことかわからず、もじもじしてゐるが、遂に、画かきの周囲をぐるぐる廻りはじめる。
男優Ｃ　　ちよつと、君、そんなとこをうろうろしないでくれ給へ。邪魔になるから……。
女優Ｃ′　　だつて、こゝは誰が歩いたつていゝとこでせう。
男優Ｃ　　歩くところはほかにいくらだつてあるだらう。僕がなにをしてるかわからないのか。
女優Ｃ′　　ふん、それで絵を描いてるつもりなんでせう。よく恥しくないわね。
男優Ｃ　　（黙つてゐる）
女優Ｃ′　　（ベンチに腰をおろし）あゝあ、どうしてかう、誰もかれも焦ら焦らしてるんだらう。人に食つてかゝりさへすれや、運が向いて来るとでも思つてるのかしら……。
男優Ｃ　　（カンヴァスを遠くから眼を細めて眺める恰好をし）人物にはだんだん興味がなくなつて来た。
長い沈黙。
男優Ａ、咳払ひをする。女優Ｂ′登場。
女優Ｂ′　　（女優Ｃ′に向ひ）飯沼さんつて方にはもうお会ひしたの？　なんておつしやつたい？　まさかあんたの註文通りには行かなかつたらう。
女優Ｃ′　　（しばらく考へて、急に、しくしく泣き出す）
女優Ｂ′　　泣いてちやわからないわ。兎に角、あんたの気持を伝へたことは伝へたんでせう。うまく云へて？　ねえ、静ちやん、姉さん、気が気ぢやないのよ。
女優Ｃ′　　あたし……あたし……もう駄目だわ……諦めるわ……。
女優Ｂ′　　感じないのね？　それとも、なんか理由があつて、世話は出来ないつていふの。どつちなのよ。
女優Ｃ′　　それがね、あたしの顔を見ると、いきなり、かう云ふのよ――「君は誰だい。会つたこともない僕に何の用があるんだい」つて……。誰か都合の悪い人がそばにゐたからなのよ。
女優Ｂ′　　面倒臭い男ね。そんならどう、静ちやん、あんた、いつそ結婚しちまはない？
女優Ｃ′　　あの人と？
女優Ｂ′　　誰とでも……。姉さんに委しなさいよ。あんた、男らしい男が好きなんでせう。
女優Ｃ′　　（うなづく）
女優Ｂ′　　風采なんか、まあ、どうだつていゝわね。
女優Ｃ′　　（考へる）
女優Ｂ′　　一人、心当りがあるの。
女優Ｃ′　　（Ｂ′の顔を見る）
女優Ｂ′　　それが画かきさんなのよ。
女優Ｃ′　　（眼をみはる）
女優Ｂ′　　（Ｃ′の耳もとに口を寄せ）そら、そこで絵を描いてる人……。黙つてらつしやい。上手だか下手だか知らないけど、あの一所懸命な恰好をごらんなさい。真剣味があるぢやないの。男はあれでなくつちや駄目よ。
女優Ｃ′　　ぢや、話を進めてみて頂戴よ。
女優Ｂ′　　（つかつかと男優Ｃのそばに進み寄り）あの、失礼でございますけれど、ちよつとお伺ひいたします。実は……。
男優Ｃ　　なんですか。
女優Ｂ′　　あの、先生はお弟子さんをおとりになりませんのでせうか。
男優Ｃ　　僕はまだ修業中ですから、弟子なんか……。
女優Ｂ′　　いゝえ、どういたしまして……それだけ立派なものがおできになれば、帝展でも院展でもわけなくお通りになりますわ。わたくし、一人妹がをりますんですけれど、子供の時分から絵が好きで……あんなに恥かしがつてますわ。それやもう、わたくしの口から申すのも変ですけれど、ちやんとした先生にお仕込み願つたら、きつと物になるだらうと思ひまして……はあ。つきましては、これと云つて、先生方にお近づきもございませんし、今日、幸ひかうしてお仕事を拝見させていたゞきましたのも、何かのお引合せかと存じますので、はあ、是非、ひとつ、わたくしどものお願ひを、お聴き入れ下さいませ。妹は、あゝ見えて、まだ十九なんでございます。先生もまだお若くつていらつしやいますわね。
男優Ｃ　　僕、二十六です。
女優Ｂ′　　あら、丁度よろしうございますわ。（女優Ｃ′に向ひ）ちよつと、静ちやん、こゝへいらつしやい。先生にお引合せしとくから……（女優Ｃ′と男優Ｃとが、今更らしく会釈を交す）いゝわね、静ちやん……なんでも先生のおつしやる通りにするんですよ。
女優Ｃ′　　えゝ。
女優Ｂ′　　先生はまだお一人でいらつしやるんだらうから、身の廻りのお世話なんか、よく気を配つてね。
女優Ｃ′　　えゝ。
女優Ｂ′　　（男優Ｃのシャツを指し）このおシャツなんかも、明日お天気だつたら洗濯をして差上げなさい。
女優Ｃ′　　えゝ、わかつてるわよ。
女優Ｂ′　　では、まあ、どうかよろしく……。お話が後先になりましたが、先生、お住居はどちらでいらつしやいます？
男優Ｃ　　別にきまつてをらんです。
女優Ｂ′　　と申しますと……。
男優Ｃ　　友達のところをぐるぐる泊つて歩いとるんです。
女優Ｂ′　　それはそれは……。ねえ、静ちやん、そこはなんとか後で御相談なさいよ。では、あたくし、ちよつと買物がございますんで……。何れまた更めて御挨拶に……。
男優Ｃ　　さうですか。
女優Ｂ′退場。
女優Ｃ′、男優Ｃの方をそつと見て、笑ひかける。
男優Ｃ、突然、呻き声を立てて、その場に倒れる。
女優Ｃ′　　（駈け寄り）あらあら、どうしたつていふんだらう。病気なのか知ら……。ねえ、どこか悪いんですか。おや、もう死んでるわ。
男優Ｃ　　死んでやしない。
女優Ｃ′　　生きてるわ。
男優Ｃ　　苦しいんだ。
女優Ｃ′　　ぢや、待つてらつしやい。今お医者を呼んで来てあげるから……。
男優Ｃ　　お医者ぢやなほらない。
女優Ｃ′　　あたしならなほせる？
男優Ｃ　　君の姉さんでなけや駄目だ。
女優Ｃ′　　あゝら、呆れた人ね、あんたは……。（男優Ｃの腰を蹴つ飛ばして退場しようとする）
男優Ｄ、洋刀を提げて登場。
男優Ｄ　　その女、待てツ！
男優Ｃ　　（絶え入るやうな呻き声。やがて、ぐつたりとなつてしまふ）
男優Ｄ　　（女優Ｃ′の腕をつかみ、そこに引据ゑる）この男は、お前のなんだ。
女優Ｃ′　　先生ですわ。
男優Ｄ　　先生？　先生をやつつけたのか？
女優Ｃ′　　やつつけたわけぢやないんですけど……。
男優Ｄ　　やつつけとつたぢやないか。これみろ、虫の息だ。いや、もう呼吸はしとらん。何処を蹴つた？
女優Ｃ′　　何処だつていゝぢやないの。うるさい。放して頂戴よ。あたし、もう帰る時間なのよ。
男優Ｄ　　帰る？　何処へ帰るんだ？　お前の今夜の宿は、おれが取つてやる。兎に角、一緒に来い。
女優Ｃ′　　あんた、偽巡査でせう。
男優Ｄ　　（片手を口にもつて行つて呼子を吹く真似）ついて来たらわかる。（またピリピリピリ）
男優Ａ、手を叩く。
男優Ａ　　そこらで幕にしておかう。初めてとしては、まあそんなもんだらう。何時も云ふやうに、想像の範囲がまだ狭すぎるから、これはお互ひ、もつと伸びのびと空想を働かす必要がある。ちつとは羽目を外してもかまはん。最初に筋の発展といふことを云つたが、それは即興劇の本体ではない。云はゞ玉蜀黍のしんみたいなものだ。弾力と自発性に富む俳優個々の性能が、劇的感覚にうつたへる特殊な魅力になることはこれまで云つた通り。（この時、女優Ａ′が、遅れてはひつて来る）よし、遅れて来た罰として、君、そこへ出て、即興劇をやり給へ。相手を一人、誰か……さうだ、木谷君、君相手役になつて……。（木谷君と指名された男優Ｅは頭を掻く）
女優Ａ′　　先生、筋は……？
男優Ａ　　筋は自分で作る。
女優Ａ′　　あら……。
男優Ａ　　あらぢやない。今日はみんなそれでやつたんだ。さ、始めた。（手を叩く）
女優Ａ′　　（しばらく舞台の上を往つたり来たりしてゐる）
男優Ｅ　　（登場して）どうもお待たせいたしました。この森の中なら、誰も気づくものはございません。どんな秘密でも、どんな恐ろしい企みでも、世の中に知れる気づかひはございますまい。
女優Ａ′　　なにも秘密な話だからつて、そんな時代めいた口調にならなくたつていゝだらう。当節、お前のやうな男は流行らないよ。まごまごしないで、こつちへおいでよ。
男優Ｅ　　はい。でも奥様、万一の用心に、私は、この木の蔭にかくれてお話を承りませう。奥様のお声と、鳥の声とは、どうやら聞き分けられさうでございます。（蹲る）
女優Ａ′　　当り前ぢやないか。梟と間違へられてたまるもんか。しかし、いざとなると云ひ出しにくいね。お前、大概、察してるだらう。
男優Ｅ　　察しろといふお許しは、まだ出てをりませんやうに考へますが……。
女優Ａ′　　ぢや、許すから、云つてごらん。
男優Ｅ　　では、恐れながら、申上げます。あの、殿様をひと思ひに……。（はッとして）声が大きうございますか。
女優Ａ′　　小さくつて聞えないんだよ。
男優Ｅ　　あの、わたくしのやうな不束者でも、奥様の御意に叶ひませば、命に代へて御奉公をいたさうと覚悟いたしてをります。水の中、火の中はおろか、天井裏、床下、さては、お靴下の底でも厭ひません。玉の肌、露の滴、夢は千里を駈けるらん。
女優Ａ′　　その志はうれしいけれど、生憎、見当が外れてるよ。それはまあそれとして、あたしが頼みたいことといふのは、お前さんは当家の執事なんだから、職務がら、ひとつ、御前を欺して、見込のない事業か何かに、財産をすつかり注ぎ込まして欲しいの。家屋敷は無論、人手に渡す覚悟で、思ひきり大きくやつておくれよ。あたしは、御前と二人で、裏長屋に住んでみたいの。
男優Ｅ　　それで、わたくしは……。
女優Ａ′　　帳面でもなんでも誤魔化すさ。あとで困らないやうに刎ねられるだけ刎ねてお置き。あゝ、こんな生活はいやいや。せめて、暑さ寒さが身にこたへ、水一杯、お粥ひと啜りがお腹にしみるやうな暮しをしてみたい。
男優Ｅ　　仰せではございますが、これをわたくし、そのまゝ御前のお耳に入れる所存でございます。御立腹なさいませうな。――怪しからんことを云ふ。よし、すぐにも、あの女、暇を出せ、籍を抜け、裸にして追ひ返せ、かう、例によつて……。
女優Ａ′　　続けさまにおつしやるといふのかい。さうしたら、あたしは、お前さんがさつき云つたことを申上げるよ。玉の肌とは一体、なんのことでございませうつて……。
男優Ｅ　　これは異なこと……。御前様は、大きくお肯きになります。
女優Ａ′　　そして、お前は、お手討だ。
男優Ｅ　　如何でございませう。お互ひに逃れられぬ運命、この辺で、妥協の道はございますまいか。
女優Ａ′　　喉がかはいたよ、あたしは。
男優Ｅ　　畏まりました。あの音はたしかに泉の音でございます。ひと走り、確めて参りませう。
女優Ａ′　　なに、あたしも一緒に行くよ。
男優Ｅ　　そこはお危うございます。野茨が茂つてをります。さ、こちらをお通り下さい。（案内をする身ごなし）お待ち遊ばせ。只今、わたくしが場所をこしらへます。お召物をお濡らしにならないやうに……。どれ、お先へ、お毒味をいたしませう。いや、これは冷い。水道の水とは比較になりません。天然のアイスオーターでございます。
女優Ａ′　　さあ、おどきよ。見てないでいゝから、お前あつちを向いといで！（しやがんで清水に口を当てる真似）
男優Ｅ　　（首だけをそつちに向け）思ひがけない天女の口づけ、森の泉は……。
女優Ａ′　　（急に顔を上げたかと思ふと、口に含んだ水を、いきなり男優Ｅの面上に吹きかける）
男優Ｅ　　（平然として）待てば海路の日和、旱天の驟雨、情けは人の為めならず……。
男優Ａ、手を打つ。
女優Ａ′と男優Ｅとは、笑ひながら握手。
男優Ａ　　大分苦しかつたな。これから、今日の成績について、合評会をやる。その前に、われわれ俳優が、第一に考へなければならないことがあるから、それを云つておきたいと思ふ。抑も俳優は、脚本の奴隷であつてはならん。これは勿論であるが、そのことを弁へながら、往々にして、われわれは、脚本作者の与へるものに信頼しすぎ、これの助けなしには芝居が打てぬと考へてゐる。イプセン、チェエホフの天才は暫く問題外とする。当今われわれの周囲に、どれほどの作者、真に作家らしき作家がゐるか。待て！　われわれは、まだ、自分の手で作り出さなければならぬもの、また作り出し得るもの、自分の畑で実らすべき種を、悲しい哉、悉く彼等作者に仰いでゐるんだ。人生のほんの表面の意味、人間の平凡な心理、世相の僅かな観察、そして、舞台の、あの狭い舞台のからくり、それさへわれわれはまだ掴んでゐないのだ。――君たちの書くものぐらゐ、われわれにだつて書けるぞ、かう云へなければ、今日、日本の芝居は面白くなりつこはない。その上で、ほんたうの、専門的な、戯曲家らしい戯曲家の出現を待てばいゝのだ。では、始めよう。
女優Ａ′　　先生、ちよつと、質問をさせて下さい。
男優Ａ　　なんだ。
女優Ａ′　　俳優つていふものは、どこまで行つても、自分が自分でないやうな気がいたします。それを思ふと、あたくし、泣きたくなりますの。人に決めてもらつた人物になるんでもなく、人の書いた台詞を云ふんでもない、今日のやうな場合でも、自分が何処へ行くのかわからず、一言喋舌つた後で、何をしでかすかわからないんですもの。
男優Ａ　　その疑問は、何れ、見物が解決してくれるよ。河野君、君から先づ、気のついたことを云つてみ給へ。
女優Ｄ′　　あたくし、胸がどきどきして、なんにもわかりませんでした。
男優Ａ　　困るな。ぢや、遠山君……。
男優Ｃ　　僕も、誰がどうだつたかよく覚えてゐません。自分のことで頭がいつぱいでしたから……。