　Ｙ子はＫ病院で扁桃腺の手術をすることになつた。
　Ｙ子は九歳で、春夏秋冬、風邪をひいた。
　Ｙ子は母親と、Ｋ子叔母ちやまと、女中とに連れられて家を出た。
　Ｙ子はその日、平生よりもはしやいでゐた。そして、時々、溜息を吐いた。
　裸にされ、手術室にはひると、そばに母親も、Ｋ子叔母ちやまも、女中もゐなかつた。
　Ｙ子は、一寸泣きたさうな顔をしたが、やがて、夢中で口をあいた。――母親が、鍵孔から、息をこらして、中の様子を見てゐることなど、勿論知らなかつた。
　突然、Ｙ子は泣き出した。喉がチクツとした。
「さ、もう一度、口をあいて……」
　お医者さんが云つた。
　母親は、鍵孔に眼を押しつけた。
　Ｙ子は泣きながら、大きな口を開いた。
　こんどは、母親が泣きたくなつた。
　そのことを、あとで、Ｋ子叔母ちやまと女中とに話したら、二人とも、また泣きたくなつた。
　Ｙ子は、喉に氷をあてゝ、ちよつと、得意さうに眼をつぶつてゐた。