「堺へいなう、堺へいなう」
深夜、安土城の庭から
奥の寝室に聞えてくる声
移し植ゑたばかりの
妙国寺の蘇鉄
毎夜のやうに言ふ
信長は手討にしなかつた
「あの蘇鉄を
堺へ帰してやれ」
話のついでに――
「晶子さん
あなたは堺へ帰りたいと思ひませんか」
「いいえ
よく出てきたと思ひます」
堺は古い街だ
古い街から
新しい人が生れた
晶子さんは、また
黙つて堺へ帰つてゐる
蘇鉄よ
私も、もう一度
堺へ帰らう