　整形外科はヲンナの目を引き裂いてとてつもなく老ひぼれた曲芸象の目にしてしまつたのである。ヲンナは飽きる程笑つても果又笑はなくても笑ふのである。
　ヲンナの目は北極に邂逅した。北極は初冬である。ヲンナの目には白夜が現はれた。ヲンナの目は膃肭臍の背なかの様に氷の上に滑り落ちてしまつたのである。
　世界の寒流を生む風がヲンナの目に吹いた。ヲンナの目は荒れたけれどもヲンナの目は恐ろしい氷山に包まれてゐて波濤を起すことは不可能である。
　ヲンナは思ひ切つて NU になつた。汗孔は汗孔だけの荊莿になつた。ヲンナは歌ふつもりで金切声でないた。北極は鐘の音に慄へたのである。
　　　　　◇　　　　　　　◇
　辻音楽師は温い春をばら撒いた乞食見たいな天使。天使は雀の様に痩せた天使を連れて歩く。
　天使の蛇の様な鞭で天使を擲つ。
　天使は笑ふ、天使は風船玉の様に膨れる。
　天使の興行は人目を惹く。
　人々は天使の貞操の面影を留めると云はれる原色写真版のエハガキを買ふ。
　天使は履物を落して逃走する。
　天使は一度に十以上のワナを投げ出す。
　　　　　◇　　　　　　　◇
　日暦はチヨコレエトを増す。
　ヲンナはチヨコレエトで化粧するのである。
　ヲンナはトランクの中に泥にまみれたヅウヲヅと一緒になき伏す。ヲンナはトランクを持ち運ぶ。
　ヲンナのトランクは蓄音機である。
　蓄音機は喇叭の様に赤い鬼青い鬼を呼び集めた。
　赤い鬼青い鬼はペンギンである。サルマタしかきていないペンギンは水腫である。
　ヲンナは象の目と頭蓋骨大程の水晶の目とを縦横に繰つて秋波を濫発した。
　ヲンナは満月を小刻みに刻んで饗宴を張る。人々はそれを食べて豚の様に肥満するチヨコレエトの香りを放散するのである。
一九三一、八、一八